・・・ 万人は万人円らかな愛と、浄化された本然とを求めて居る。 けれども、其なら絶間ない努力と、絶間ない祈りとの熾な焔に、無残にも其を打消す汚れを浴せ掛けるのは誰だろう? 其も亦同じ祈る彼等、努力する私共である。 何故、私共は、あらゆ・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・しかし何等外的な目的を持たないで、自分自身を築き上げ、時代と永遠とに対する自分達の個人的関係を浄化しようという欲求」に立つ詩人であり、生活の核心に近づくため「あらゆる好意とよろこびの核心は愛であること」を語る詩人であることを明らかにした。当・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・年忌の営みは晴れ晴れしいものになるらしく、一箇月ばかり前から、熊本の城下は準備に忙しかった。 いよいよ当日になった。うららかな日和で、霊屋のそばは桜の盛りである。向陽院の周囲には幕を引き廻わして、歩卒が警護している。当主がみずから臨場し・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・それから殉死者遺族が許されて焼香する、同時に御紋附上下、同時服を拝領する。馬廻以上は長上下、徒士は半上下である。下々の者は御香奠を拝領する。 儀式はとどこおりなく済んだが、その間にただ一つの珍事が出来した。それは阿部権兵衛が殉死者遺族の・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・某致仕候てより以来、当国船岡山の西麓に形ばかりなる草庵を営み罷在候えども、先主人松向寺殿御逝去遊ばされて後、肥後国八代の城下を引払いたる興津の一家は、同国隈本の城下に在住候えば、この遺書御目に触れ候わば、はなはだ慮外の至に候えども、幸便を以・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・そしてその日のうちに姫路の城下平の町の稲田屋に這入った。本意を遂げるまでは、飽くまでも旅中の心得でいて、倅の宅には帰らぬのである。 宇平は九郎右衛門を送って置いて、十二月十日に文吉を連れて下関を立った。それから周防国宮市に二日いて、室積・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ ある時信康は物詣でに往った帰りに、城下のはずれを通った。ちょうど春の初めで、水のぬるみ初めた頃である。とある広い沼のはるか向うに、鷺が一羽おりていた。銀色に光る水が一筋うねっている側の黒ずんだ土の上に、鷺は綿を一つまみ投げたように見え・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・それはまず浄火と云うもので浄めなくてはならないからである。浄めると云うのは悉しく調べるのである。この取調べの末に、いつでも一人や二人は極楽へさえやって貰うのである。 この緑色の車に、外の人達と一しょにツァウォツキイも載せられた。小刀を胸・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ フロベニウスはそこに教養の均斉を見いだした。上下がこれほどそろって教養を持っているということは、北方の文明人の国にはどこにもない。 が、この最後の「幸福の島」もまもなくヨーロッパ文明の洪水に浸された。そうして平和な美しさは洗い去ら・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・私は自分に浄化の熱欲と道徳的疳癪とがあるゆえをもって、自分のメフィストを跳躍させてよいものだろうか。それは自己と同胞とに対する愛の理想を傷つけはしないだろうか。私は彼らの弱所を気の済むまで解剖したところで、どれだけ自分の愛を進め得たろうか。・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫