・・・ 彼は絶えずけちな情事ばかり追い廻していると云うので、皆の物笑いになっている独り者の男であった。羅紗を売るのを口実にして、よその細君のところへ入り込むことも有名だ。マリーナ・イワーノヴナは、彼がどんな女にでも惚れるのを馬鹿にしながら、憎・・・ 宮本百合子 「街」
・・・偶々外的の関係は教師と生徒であっても、本能の発露は村の若衆と小娘との情事めいています。 男の先生と女の生徒との間には、同性間に見られない特殊な雰囲気の生ずることは誰でも知っていることで、その最も美しい例を私共は、聖フランシスと聖クララと・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・『地下一尺集』の諸篇はこの多情な、自然及び芸術との「情事」の輝かしい記録である。伊豆の海岸。江戸。京、大阪。長崎。奈良。北京。徐州。洛陽。(ここで彼は東洋人になる。東京の裏街で昔の江戸の匂いを嗅これらの郷土の風景と住民と芸術との一切が、ここ・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫