・・・日本のすべての条理ある精神は、反民主的なあらゆることについては、どこまでも闘おうと決心した。反民主的な文学とその作家たちとは、夜も昼も強固な敵をもたねばなるまい。そういう人々にとっては、芸術そのものが立って刃向ってゆくだろう。芸術、そして文・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・そのついやることは、きょうの社会のわれ目が巨大であり非条理であるに応じて、大きい規模をもち、非人間性を示す。「希代の少年空巣。年にチョロリ三百万円」、「アゴで大人使う少年強盗」そして、日大ギャング事件の山際・左文の公判記事は、大きく写真入り・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ このように文化が戦争の宣伝具とされた時期、いわゆる純文学はどういう過程を経たかと云えば、周知のとおり、人間本来のこころを映す文学は抹殺され、条理の立った批判は封ぜられ、遂に文化という人間だけがもっている精神活動の成果をあらわす高貴な字・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 自身女性である中島湘煙が、なぜ女はみな魔がさしているような非条理におかれているかというその原因にまでふれ、沈潜して理解してゆこうとせず、かえって男の福沢諭吉が女のために懇切、現実的であったという事実は私たちに何を教えるだろう。それぞれ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 公然と条理をもって、しかも人間的機智と明察をもって、どこまでもユーモラスに、だが誰憚らぬ正気な状態において諷刺文学がありうる処と時代に、スカートの中を下からのぞくようなゲラゲラ笑いが、笑う人間の心を晴やかにするとは思われない。自分たち・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・これらの国の女性は、ほんとうに有無をいわさず、愛情の懐から男たちを奪われ、野蛮と不条理で押しすすめた戦争のうちに愛する者たちを死なした。ファシズム・ナチズムの不条理と非人間らしさと戦って、それに勝利し、人間は最後には理性ある生きものであるこ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・しかし、民主的な文学なら、必ずそこを基盤としなければならない民衆の健やかで平明で条理のとおった現実的判断が、この試作の基調となっています。読んで、アクのつよい、いやな後味は一つもなかったでしょう? 小さいけれども、まともなものです。『新日本・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・『新日本文学』は第四号で、やっと、こういうふうに、かたよった文学人の文学でないもの、あたりまえの社会的人間の情理に立った文学への声を包括しはじめました。こういうふうに行かなくては、『新日本文学』の出る意味がないのです。『真・善・美』とい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 漱石の両性相剋の悲劇の核は、一貫して女の救いがたい非条理性と男にとって堪えがたい欺瞞性とにおかれている。「行人」の直は、「明暗」のお敏のように自覚して夫を欺瞞しつつ、その恥に無感覚なような性の女ではない。しかしながら、一郎にとっては二・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
小石川――目白台へ住むようになってから、自然近いので山伏町、神楽坂などへ夜散歩に出かけることが多くなった。元、椿山荘のあった前の通りをずっと、講釈場裏の坂へおり、江戸川橋を彼方に渡って山伏町の通りに出る。そして近頃、その通・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
出典:青空文庫