・・・けれども、イナオを取扱ったり祈祷をするのは、総べて男子の仕事で、婦人は決して神事に携る事は出来ませんから、祈祷の言葉や神様の事をよく知っているのは男ばかりで、婦人はこれについて何も知る事は出来ません。で、家を持つと良人はまず男の子の生れるの・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・自分等は選ばれたる者で、特別な精神高揚の努力なしで、仁慈に達せられると思って居る。自分の金を出して一つの教会を建てる騒々しい成上りものは、そう云うことで社会の尊敬を得ると思うばかりでなく、彼の奇妙な小さい霊に、彼は神を喜ばせること、人類に貢・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・それだけ、今ごろ標札のかわりに色紙を欲しがる青年の戯れに実感がこもり、梶には、他人事ではない直接的な繋がりを身に感じた。当時の悩みの種が意外なところへ落ちていて、いつの間にかそこで葉を伸ばしていたのである。彼は一日も早く栖方に会ってみたくな・・・ 横光利一 「微笑」
・・・といっているごとく、彼の体験より出たものであるが、その中で最も目につくのは、伝統や因襲からの解放である。人事については家柄に頼らず、一々の人の器用忠節を見きわめて任用すべきことを力説している。戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それは賢明な、道義的性格のしっかりとした、仁慈に富んだ人物である。そこには古来の正直・慈悲・智慧の理想が有力に働いているが、特に「人を見る明」についての力説が目立っているように思われる。うぬぼれや虚栄心や猜みなどのような私心を去らなくては、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫