・・・ 誓って責務を遂行します。」 と、漢語調の軍隊言葉で、如何にも日本軍人らしく、彼は勇ましい返事をした。そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づいて行った。彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆発の点火をするこ・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主義その他、極東軍事裁判の法廷が、それをこそ共同謀議の思想として、有罪を宣告したファシズムの思想である。あるい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・二・二六秘史についても、あの事件が日本の侵略戦争遂行のための暴動であったいきさつにはふれないで、青年将校の純情さの一面を浮び出させている。そして、「兵は、共産主義者の反乱鎮圧のために配備されているのだと信じこんでいた」というようなことも平然・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・侵略戦争の遂行のためにわたしたち人民の口はふさがれ、眼にカーキ色の幕がはられた。バイカル湖まではこちらで貰うというようなことがしらふで話されていた時期に、ソヴェト同盟は日本の軍国主義者にとっての侵略目標であった。そして世界平和と人民生活の安・・・ 宮本百合子 「あとがき(『モスクワ印象記』)」
・・・ちとしては、まじめであったそれらの試みも、日本の社会と文化とが半ば封建的で、ただの一度も権力にたいする批判力としての自主性、自身を建設する力としての自立性をもたなかった伝統にわずらわされ、つまりは戦争遂行という野蛮な大皿の上に盛りつけられて・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・井上秀子女史が戦時中日本女子大学校長としてどのように熱心に戦争遂行に協力したかは当時の学生たちが、自分たちの経験した過労、栄養不良、勉学不能によって骨の髄まで知りつくしていることだろうと思う。そういう校長を絶対勢力として戴いて、どうして教育・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 理不尽な戦争を遂行させられて、日本の人民生活は、根本から破壊されている。しかも、幣原内閣は、それに対して決して皆の納得ゆくような方針を実現してはいない。にもかかわらず、現内閣は、よたつきながら、今倒れるか、今倒れるかと思われながら、と・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ 何か推考する禎一の瞳と愛の眼がぴったり合った。愛は、ありあり意味を感じ小さい不安そうな声で訊いた。「――そうお? 貴方もそうお思いんなる?」 禎一は、素早い愛の感づきを苦笑し乍ら顎を撫でた。「――真逆と思うがね、どうも。―・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・しかしながら、その衝撃的テンポは自ら石油の生産経済計画遂行の衝撃的テンポと同一ではあり得ないのであった。 一九三〇年の党大会後「ラップ」が自己批判して、工場、クラブ内の文学研究会指導方針を変更したことは前回に書いた。 孤立的な余技的・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その上、苦心などという事は、全く主観的のものであって、生れつき文芸好きな私自身は、創作には準備の場合にも推敲の場合にも、苦しいどころか愉快を感じて居りますので、其意味に於て私は、特別に苦心をしたという経験がないので御座います。 一番嬉し・・・ 宮本百合子 「処女作より結婚まで」
出典:青空文庫