・・・去ってしまった、それから五分も経ったか、その間身動きもしないで東の森をながめていたが、月の光がちらちらともれて来たのを見て、彼は悠然立って着衣の前を丁寧に合わして、床に放棄ってあった鳥打ち帽を取るや、すたこらと梯子段を下りた。 生垣を回・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・とばかり、すたこらと門を出て吻と息を吐いた。「だめだ! まだあの高慢狂気が治らない。梅子さんこそ可い面の皮だ、フン人を馬鹿にしておる」と薄暗い田甫道を辿りながら呟やいたが胸の中は余り穏でなかった。 五六日経つと大津定二郎は黒田の娘と・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 神宮通りをすたこら歩いた。葉山家、映画の会は、今夜だという。急がなければならぬ。「ここです。」少年は立ちどまった。 古い板塀の上から、こぶしの白い花が覗いていた。素人下宿らしい。「くまもとう!」と少年は、二階の障子に向って・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫