・・・ 狂言は、それから、すっぱが出て、与六を欺し、与六が帰って、大名の不興を蒙る所で完った。鳴物は、三味線のない芝居の囃しと能の囃しとを、一つにしたようなものである。 僕は、次の狂言を待つ間を、Kとも話さずに、ぼんやり、独り「朝日」をの・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・ 彼女にくらべて、友だちの娘は、平常、はすっぱといわれるほどの、快活の性質でありましたから、これをきくと、すぐに、「私が、お約束をいたします。勇ましい、遠い船出から、あなたのお帰りなさる日を、氏神にご無事を祈って、お待ちしています。・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
・・・それがたび重なると、笑顔の美しいことも、耳の下に小さい黒子のあることも、こみ合った電車の吊皮にすらりとのべた腕の白いことも、信濃町から同じ学校の女学生とおりおり邂逅してはすっぱに会話を交じゆることも、なにもかもよく知るようになって、どこの娘・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・だから僕が云ってやったんだが、本気で何とかする気だったら先ず自分がすっぱだかになって見せないじゃあ駄目だ。組合を認めて、代表を出させて、年に一遍正直な決算報告書を見せるんだ。普通の金利七八分の配当を得ようとするのは合理的なんだから労働者だっ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫