・・・食べに来るわけではなく、どういう考えか知らないが、白いものの上に坐るのである。腰かけるのかも知れない。それとも腹ばいになるのか。とにかく、船の上から軽く糸をあやつっていると、タコが来た気配は手にこたえる。そこで、サーッと引くと、タコはカギに・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ 私は本の入ったかばんの上に座るのは一寸困りましたけれどもどうしてもそのお話を聞きたかったのでとうとうその通りしました。 すると蜂雀は話しました。「ペムペルとネリは毎日お父さんやお母さんたちの働くそばで遊んでいたよ〔以下原稿一枚・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・ そして芳子さんの前に坐ると、心から、「芳子さん、どうぞ勘弁して頂戴」と申しました。 学校で戴いた修業証書を見ていた芳子さんは、其の言葉と一緒に顔を上げました。「真個に――御免なさい、芳子さん、私、今まで沢山貴女にすまない事・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・床の間の前へ行って据わると、それ、御託宣だと云うので、箕村は遥か下がって平伏するのだ。」「箕村というのは誰だい。」「箕村ですか。あの長浜へ出る処に小児科病院を開いている男です。前の細君が病気で亡くなって忌中でいると、ある日大きな鯛を・・・ 森鴎外 「独身」
・・・ 机の前に据わる。膳が出る。どんなにゆっくり食っても、十五分より長く掛かったことはない。 外を見れば雨が歇んでいる。石田は起って台所に出た。飯を食っている婆あさんが箸を置くのを見て「用ではない」と云いながら、土間に降りる縁に出た。土・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫