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・・・ところが春浪さんは僕等の見知らぬ男を引連れ、ずかずか二階へ上って来て、まず唖々さんに喧嘩を売りはじめた。僕は学校の教師見たような事をしていた頃なので、女優と芸者とに耳打して、さり気なく帽子を取り、逸早く外へ逃げだした。後になって当夜の事をき・・・
永井荷風
「申訳」
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・・・今も獣のように泥でよごれた足の裏のままずかずか縁側に上った。「お茶もっといで」 お茶が来た。「お茶菓子もっといで」 幸雄は、「石川、お菓子おあがりよ」とすすめた。すすめながらも、幸雄は牡丹の花に見とれているのがありあ・・・
宮本百合子
「牡丹」