・・・といって十吉が起きて行く頃にはもう銀行は閉っている。ずるずるべったりに放って置いて、やがて市内で会合のある時など早くから外出した序でに、銀行へ廻る。がもうその時は、小切手の有効期間が切れている。振出人に送り戻して、新しい小切手を切ってもらう・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 起きなければ、起きなければと思いながらも一本と吸っている時の私は、自分の人生を無駄に浪費しているわけだが、しかしそのような浪費のずるずるべったりの習慣の怖しさをふと意識した瞬間ほど、私は自分のデカダンの自虐的な快感を味わう時はないのだ・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ 剃刀屋で三月ほど辛抱したが、やがて、主人と喧嘩して癪やからとて店を休み休みし出したが、蝶子はその口実を本真だと思い、朝おこしたりしなくなり、ずるずるべったり店をやめてしまった。蝶子は一層ヤトナ稼業に身を入れた。彼女だけには特別の祝儀を・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そこでまあ十一月二十五日が来るまでは構うまいという横着な料簡を起して、ずるずるべったりにその日その日を送っていたのです。いよいよと時日が逼った二三日前になって、何か考えなければならないという気が少ししたのですが、やはり考えるのが不愉快なので・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 従って、プロレタリア作家としての自身の発展に対しても、稲子さんは、ずるずるべったりなところがない。このことは、或る場合、現在のような時期には、複雑な内容で彼女を苦しめることも、私にはよく理解されるように思う。プロレタリア作家として窪川・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・に取扱われているそれとは全く反対の生ぬるい、澱んだ、東洋風の諦観に貫かれているのでもなければ、フィリップの作のように、生活への愛に満されているのでもない、ずるずるべったりの売笑婦とその連合いとの生活を描く作者の心境に対してはっきりした軽蔑を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・つまり、余り突然だと云うのだね、妻の心持で云えば、斯う云うことを云う前に、何とか、前からのことの定りがつくべきであると云うのだ。ずるずるべったりで、いきなり父親を連れて行くから、と命令されるようでは、甚だ心苦しいと云うのだ。 切角、田舎・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫