・・・たときには、そのときだけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲンで精細にしらべられ、稀に見る頑強の肺臓であ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・はじめから死ぬるつもりで、女学生に決闘を申込んだ様子で、その辺の女房のいじらしい、また一筋の心理に就いては、次回に於いて精細に述べることにして、今は専ら、女房の亭主すなわち此の短いが的確の「女の決闘」の筆者、卑怯千万の芸術家の、その後の身の・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・この種の伝統だけは、いまもなお、生彩を放って居る。ちっとも古くない。女の幽霊は、日本文学のサンボルである。植物的である。 日本文学の伝統は、美術、音楽のそれにくらべ、げんざい、最も微弱である。私たちの世代の文学に、どんな工合いの影響・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・はっきり客観の句だとすると、あまりにもあたりまえ過ぎて呆れるばかりだし、村人の呟きとすると、少し生彩も出て来るけれど、するとまた前句に附き過ぎる。このへん芭蕉も、凡兆にやられて、ちょっと厭気がさして来たのか、どうも気乗りがしないようだ。芭蕉・・・ 太宰治 「天狗」
・・・ 社会制裁の目茶目茶は医師のはんらんと、小市民の医師の良心に対する盲目的信仰より起った。たしかに重大の一因である。ヴェルレエヌ氏の施療病院に於ける最後の詩句、「医者をののしる歌。」を読み、思わず哄笑した五年まえのおのれを恥じる。厳粛・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・あまたの子供のなかにひとりくらいの馬鹿がいたほうが、かえって生彩があってよいと思っていた。それに逸平は三島の火消しの頭をつとめていたので、ゆくゆくは次郎兵衛にこの名誉職をゆずってやろうというたくらみもあり、次郎兵衛がこれからもますます馬のよ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・られた時には、その時だけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲンで精細にしらべられ、稀に見る頑強の肺臓であ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・に有機的な設計書の精細な図表に従って、厳重に遂行されなければならない性質のものである。しかもそれはこれに併行する経済的の帳簿の示す数字によって制約されつつ進行するのである。細かく言えば高価なフィルムの代価やセットの値段はもちろん、ロケーショ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・気球に乗って一万メートルの高さにのぼって目をまわしておりて来たというだけの人と、九千メートルまでのぼってそうして精細な観測を遂げて来た人とでは科学的の功績から採点すればどちらが優勝者であるか、これは問題にもならない。 レコードは上述のご・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ 分類は精細にすればするほど多岐になって、結局分類しないと同様になるべきはずのものである。しかしこの迷理を救うものは「方則」である。皮相的には全く無関係な知識の間の隔壁が破れて二つのものが一つに包括される。かようにしてすべての戸棚や引出・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
出典:青空文庫