・・・彼等は、この辛苦の生産品を市場にまで送らなければならないのです。 都会人のある者は、彼等の辛苦について、労働については、あまり考えないで、安いとか、高いとかいって、商人の手から買い、安いければ、安いで無考えに消費するまでのことです。・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・「もっとも新券、新券と珍らしがって騒いでるのも、今のうちだよ。三月もすれば、前と同じだ。新券のインフレになる」「結局金融措置というのは人騒がせだな」「生産が伴わねば、どんな手を打っても同じだ。しかもこんどの手は生産を一時的にせよ・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・たとえば唯物史観的な倫理学は一定の生産関係、ある階級に妥当なる道徳のほかは認めないであろう。また種々に道徳を比較し、分析し、記述することを任務とするという倫理学もある。確かにわれわれが倫理的な問いを持つにいたった痛切な原因にはこの時と処と人・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・立野信之、細野孝二郎、中野重治、小林多喜二等によって幾つかは生産されている。そこには、あるいはこく明にはつらつと、あるいはいみじくも現実的に、あるいは、みがかれた芸術性を以て単純素ぼくに、あるいは、大衆性と広さとをねらって農民の生活が操拡げ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・勿論、自然主義文学運動は、ブルジョア生産関係の反映として、「在るがまゝに現実を描き出すこと」「科学的精神」「客観描写」「現実曝露」等、ブルジョアジーがその生産方法の上に利用した科学の芸術的反映として、ブルジョア社会建設のために動員され、そし・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 思いもよらない収入のある話と私が言ったのは、この大量生産の結果で、各著作者の所得をなるべく平均にするために、一割二分の約束の印税の中から社預かりの分を差し引いても、およそ二万円あまりの金が私の手にはいるはずであった。細い筆を力に四人の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・などをお書きになっていらした頃は、文学者の孤独または小説の道の断橋を、凄惨な程、強烈に意識なされていたのではなかろうか。 四十歳近い頃の作品と思われるが、その頃に突きあたる絶壁は、作家をして呆然たらしめるものがあるようで、私のような下手・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・私には成算ございましたので、二、三日、様子を見て、それから貴方へ御寄稿のお礼かたがた、このたびの事件のてんまつ大略申し述べようと思って居りましたところ、かれら意外にも、けさ、編輯主任たる私には一言の挨拶もなく、書留郵便にて、玉稿御返送敢行い・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ これが、ひや酒となると、尚いっそう凄惨な場面になるのである。うなだれている番頭は、顔を挙げ、お内儀のほうに少しく膝をすすめて、声ひそめ、「申し上げてもよろしゅうございますか。」 と言う。何やら意を決したもののようである。「・・・ 太宰治 「酒の追憶」
出典:青空文庫