・・・空もいつかすっかり霽れて、桔梗いろの天球には、いちめんの星座がまたたきました。 雪童子らは、めいめい自分の狼をつれて、はじめてお互挨拶しました。「ずいぶんひどかったね。」「ああ、」「こんどはいつ会うだろう。」「いつだろう・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・ 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん、まっ黒でしたがそれでも林の中に入って行きますと、その脚の長い松の木の高い梢が、一本一本空の天の川や、星座にすかし出されて見えていました。 松かさだか鳥だかわからない黒いものがたくさんその梢にと・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・つまり双子星座様は双子星座様のところにレオーノ様はレオーノ様のところに、ちゃんと定まった場所でめいめいのきまった光りようをなさるのがオールスターキャスト、な、ところがありがたいもんでスターになりたいなりたいと云っているおまえたちがそのままそ・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・「或女」以後、私は、彼の作品が、或行き詰りを持ち始めたことを知った。読んで見ると、精神の充実したフルーエントなところがなく修辞的でありすぎ、いつまでも青年の感傷に沈湎して居るような歯痒さがあった。「星座」にも同じ失敗を認める。大づかみに、ぐ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・夫人、成人して若い妻となっている令嬢、その良人その他幼い洋服姿の男の子、或は先夫人かと思われるような婦人まで、正座の画家をめぐって花で飾られたテーブルのまわりをきっしりととりかこんでいるのである。 一応は和気藹々たるその光景は、主人公が・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・学生服や開襟シャツに重ねた仕事着姿の被告たちにまじって、ただ一人きちんとネクタイをつけ上着のボタンをかけた背広服姿の竹内被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・其の渾沌の裡に只三つ丈光った星座がある。私と、愛弟と或る青年の先生とである。 其時分、先生はもう大人だと思っていた。十二三の自分は、理性と感情との不均斉から絶えず苦しんでいた。恐ろしく孤独だった。世界が地獄のようであった。そして、今年十・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ モーンフル、メモリーとでも呼びたい様な、重い沈んだ気持で、陰の多い部屋に静座して居るのも、顔の熱くなる様な興奮に身をまかせて、自分の眼に写るすべての物を、美くしく、快活に明らかに見るのも共によいものである。 S子の様に、とりとめの・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・ 一刻千金も高ならぬその有様をまともに見る広間はあけはなされてしきつめられた繧繝べりの上をはすにあやどる女君達の小机帳は常にもまして美くしい。 正坐にかまえて都人の華奢な風を偲ばせて居るのは殿、その下坐に弟君、かかり人までこの宴にも・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・『文芸』や『星座』が試みはじめたつつましやかな民衆の文化交驩の機会が、どうかまたすみやかに恢復されることを願っている。 女の作品 三篇に現われた異なる思想性 中本たか子氏は数年来、非常・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫