・・・消化吸収排泄循環生殖と斯う云うことをやる器械です。死ぬのが恐いとか明日病気になって困るとか誰それと絶交しようとかそんな面倒なことを考えては居りません。動物の神経だなんというものはただ本能と衝動のためにあるです。神経なんというのはほんの少しし・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・なるほどやっぱり陳氏だ、お経にある青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光をやったんだなと、私はつくづく感心してそれを見上げました。全くその蓮華のはなびらは、ニュウファウンドランド島、ヒルテイ村ビジテリアン大祭の、新鮮な朝のそらを、かすかに光・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 婦人が性の本然として生殖の任務をもっているということと、女は家庭にあるべきものという旧来の考えかたと、婦人が今日の社会事情の現実によって課せられている勤労の必然と、この三つのものは現代では未だ非常な紛糾、混乱した関係におかれていると思・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・結婚の自然的な結果は生殖である。此は生理的の結果で、人間の内に神が死なない限り、人は只異性と公許の交接によって子供を産む事――その事実のみに幸福を感じて満足するものではないのだ。自分は結婚を肯定する。広い範囲に於て肯定する。単に、爾姦淫せざ・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・一行が降り立ったら、薄青色の制服をつけた二人のフランス兵がランターンを手に下げて来て案内した。 秋の黄昏に廃趾の番をしていた兵士たちの肩のあたりが淋しそうである。ショウモンの砲台にはヴェルダン司令部があった。 飲料の貯水池が砲台の奥・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・者の庶民的生活力には結びつかず、象徴派のマラルメやアンリ・ド・レニエなどと相識り、爾後四五年間はその温室の中にあって、間接に『法螺貝』、『半人獣』などという雑誌編輯に当り、グループの「最も光彩陸離たる聖職者の一人」となった。 当時のジイ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ ギャーギャーとまるで お上でものをいうのとはちがった声色で ふざけ笑っている女のこえ。 午後 サイレンはついききおとしたが 方々の寺で鐘がなり、それに合わせるように 裏通りで 豆腐屋のラッパがしきりに鳴・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
○床の間の上の長押に功七級金鵄勲章の金額のところはかくれるような工合に折った書類が 茶色の小さい木の椽に入ってかかっている、針金で。○大きい木の椽に、勲八等の青色桐葉章を与う証が入っている。「三万五千五百八十四号ヲ以・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ ○黒の綿リンズの羽織に、青色のつむぎの着物を着て居る。 すっかりはげた頭の中途に五分位のはばでまっ白な髪の毛がはえて居る。写真で見たより倍も倍も活々した美くしい顔をして居る。〔欄外に〕 彼はどう云うときに、自分・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・然し、友よ、私は、只一部分丈に視野を画って、今は、青い時だ、俺はその青い中でも一番強い青色を持っているのだぞ、と云って誇る心掛にはなりたくないと思う。 青でもよい。赤でもよい。何でもよいのだ。只過ぎて行く瞬間の呼声に、くらまされなければ・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫