・・・現在は、菊池寛氏のように恋愛を広義の遊蕩、彼のいわゆる男の生物的多妻主義の実行場面と見、結婚を市民的常識にうけいれられた生殖の場面、育児の巣と二元的に考える中年の重役的認識と、恋愛は楽しくロマンティックで奔放で、結婚は人生の事務であると打算・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・又職業病の正直な調査の結果は、ベンゾール及びその誘導物に対して、婦人の肉体は極めて抵抗力が弱くて、生殖機能を破壊されるということを明瞭にしている。ベンゾールばかりでなく、軍需関係の化学的部門で人間の体に有益なものは殆ど一つもない。それはそう・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・そして、動物の生殖について、野卑な説明を与え、むきだしに自分たちの興味を示した。書生がいるとき、子供によくわからないけれども何かを意味するいろいろの話が、子供のいるときでもされた。留守番をするながい時間、子供はそういう荒っぽい空気のなかにい・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・境内の杉の木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒の上に笠のように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。人々が不思議がって見ているうちに、二羽が尾と嘴と触れるようにあとさきに続いて、さっと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・湯の青色と女の体、女の体と髪の黒色、あるいは処々に散らばる赤、窓外の緑と檜の色、などの対照も、きわめて快い調和を見せている。濃淡の具合も申しぶんがない。――しかし難を言えば、どうも湯の色が冷たい。透明を示すため横線を並べた湯の描き方も、滑ら・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫