・・・のごとき、当時では最も西洋臭くて清新と考えられたものを愛読し暗唱した。それ以前から先輩の読み物であった坪内氏の「当世書生気質」なども当時の田舎の中学生にはやはり一つの新しい夢を吹き込むものであった。宮崎湖処子の「帰省」という本が出て、また別・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 不思議なことに、この一杯のアイスクリームの香味はその時の自分には何かしら清新にして予言的なもののような気がしたのである。 四 橋の袂 千倉で泊った宿屋の二階の床は道路と同平面にある。自分の部屋の前が橋の袂に当・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・しかし、たまには三原山記事を割愛したそのかわりに思い切って古事記か源氏物語か西鶴の一節でも掲載したほうがかえって清新の趣を添えることになるかもしれない。毎日繰り返される三原山型の記事にはとうの昔にかびがはえているが、たまに眼をさらす古典には・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ょっと見た時にはかつて夏目先生が云われたじじむさいような点や、一見甚だしく不器用なようみ見える描き方や、科学的幾何学的の不合理というようなものが目に付きやすい、それにかかわらず何とも名状の出来ぬ一種の清新な空気が画面に泛うている事は極端な頑・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 批評でも書いてみようという成心を持っていない、通り一遍の観覧者の多数は、おそらくこういう感じを抱いて洋画の方へ移って行くに相違ない。新聞雑誌に現われる短評などにも随分こういう心持をそのままに云い表わしたのが多いように見える。それで多く・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにその国の行政機関を運転させるには、ただその為政者たるものが誠意誠心で報国の念に燃えているというだけでは充分でないらしく思われる。いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・日月星辰の運行昼夜の区別とかいうものが視覚の欠けた人間には到底時間の経過を感じさせる材料にはなるまい。それでも寒暑の往来によって昼夜季節の変化を知る事はある程度までできる。振り子のごとき週期的の運動に対する触感と自分の脈搏とを比較して振動の・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ たしか浅井和田両画伯の合作であったかと思うがフランスのグレーの田舎へ絵をかきに行った日記のようなものなども実に清新な薫りの高い読物であった。その内容はすっかり忘れてしまったが、それを読んだときに身に沁みた平和で美しいフランスの田舎の雰・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・ 十五 科学を奨励する目的で、われわれが誠心誠意でやっている事が、事実上の結果において、かえって正しく科学の進歩を妨害しているような悲しむべき場合が、全くないとは言われない。これは、注意していなければならない・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・何事もすべて小器用にやすやすとし遂げられているこの商工業の都会では、精神的には衰退しつつあるのでなければ幸いだというような気がした。街路は整頓され、洋風の建築は起こされ、郊外は四方に発展して、いたるところの山裾と海辺に、瀟洒な別荘や住宅が新・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫