・・・ 二人は、岩間からわき出る清水で口をすすぎ、顔を洗いにまいりますと、顔を合わせました。「やあ、おはよう。いい天気でございますな。」「ほんとうにいい天気です。天気がいいと、気持ちがせいせいします。」 二人は、そこでこんな立ち話・・・ 小川未明 「野ばら」
・・・はり栄えた筆頭は芸者に止めをさすのかと呟いた途端に、私は今宮の十銭芸者の話を聯想したが、同時にその話を教えてくれた「ダイス」のマダムのことも想い出された。「ダイス」は清水町にあったスタンド酒場で、大阪の最初の空襲の時焼けてしまったが、「ダイ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・それは浴場についている水口で、絶えず清水がほとばしり出ているのである。また男女という想像の由って来るところもわかっていた。それは溪の上にだるま茶屋があって、そこの女が客と夜更けて湯へやって来ることがありうべきことだったのである。そういうこと・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・半ほどまで来ると、すぐ下に叔母の村里が見えます、春さきは狭い谷々に霞がたなびいて画のようでございました、村里が見えるともう到いた気でそこの路傍の石で一休みしまして、母は煙草を吸い、私は山の崖から落ちる清水を飲みました。 叔母の家は古い郷・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・途中まで来ると下男が迎えに来るのに逢いましたが、家に帰ると叔母と母とに叱られて、籠を井戸ばたに投げ出したまま、衣服を着更えすぐ物置のような二階の一室に入り小さくなって、源平盛衰記の古本を出して画を見たものです。 けれども母と叔母はさしむ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 熱沙限りなきサハラを旅する隊商も時々は甘き泉わき緑の木陰涼しきオーシスに行きあいて堪え難き渇きと死ぬばかりなる疲労を癒する由あれど、人生まれ落ちての旅路にはただ一度、恋ちょう真清水をくみ得てしばしは永久の天を夢むといえども、この夢はさ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・ 参考書のたぐい田中智学 大国聖日蓮聖人清水竜山 日蓮聖人の生涯山川智応 日蓮聖人伝十講有朋堂文庫 日蓮聖人文集室伏高信 立正安国論高山樗牛 日蓮とはいかなる人ぞ姉崎正治 法華経の行者日蓮・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・字滝の上というところにかかれる折しも、真昼近き日の光り烈しく熱さ堪えがたければ、清水を尋ねて辛くも道の右の巌陰に石井を得たり。さし当りては鬢水よりもこれこそ嬉しけれと、汲みて喉を潤おしつ、この井に名ありやと問えばなしという。名のなくてすみぬ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・此地の温泉は今春以来かく大きなる旅館なども設けらるるようなりしにて、箱館と相関聯して今後とも盛衰すべき好位置に在り。眺望のこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜に沿いあるいは田圃を過ぐる路の興も無きにはあらず、空気殊・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・ 十三日、明けて糠くさき飯ろくにも喰わず、脚半はきて走り出づ。清水川という村よりまたまた野辺地まで海岸なり、野辺地の本町といえるは、御影石にやあらん幅三尺ばかりなるを三四丁の間敷き連ねたるは、いかなる心か知らねど立派なり。戸数は九百ばか・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
出典:青空文庫