・・・深く、父上母上の我が思いなしにやいたく老いたまいたる、祖母上のこの四五日前より中風とやらに罹りたまえりとて、身動きも得したまわず病蓐の上に苦しみいたまえるには、いよいよ心も心ならず驚き悲しみ、弟妹等の生長せるばかりにはやや嬉しき心地すれど、・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡せねばならぬ。厳密にいえば、万物すべてうまれいでたる刹那より、すでに死につつあるのである。 これは、太陽の運命である。地球およびすべての遊星の運命である。まして地球・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・、左れど実体の両面たる物質と勢力とが構成し仮現する千差万別・無量無限の個々の形体に至っては、常住なものは決してない、彼等既に始めが有る、必ず終りが無ければならぬ、形成されし者、必ず破壊されねばならぬ、生長する者、必ず衰亡せねばならぬ、厳密に・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これまでいろいろなものを植えるには植えて見たが、日当りはわるく、風通しもよくなく、おまけに谷の底のようなこの町中では、どの草も思うように生長しない。そういう中で、わたしの好きな・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・わたしはまだ日の出ないうちに朝顔に水をそそぐことの発育を促すに好い方法であると知って、それを毎朝の日課のようにしているうちに、そこにも可憐な秋草の成長を見た。花のさまざま、葉のさまざま、蔓のさまざまを見ても、朝顔はかなり古い草かと思う。蒸暑・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・私は春先の筍のような勢いでずんずん成長して来た次郎や、三郎や、それから末子をよく見て、時にはこれが自分の子供かと心に驚くことさえもある。 私たち親子のものは、遠からず今の住居を見捨てようとしている時であった。こんなにみんな大きくなって、・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・あだかも春の雪に濡れて反って伸びる力を増す若草のように、生長ざかりの袖子は一層いきいきとした健康を恢復した。「まあ、よかった。」と言って、あたりを見みまわした時の袖子は何がなしに悲しい思いに打たれた。その悲しみは幼い日に別れを告げて・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・ここに生長がある。ここに発展の路がある。称して浪曼的完成、浪曼的秩序。これは、まったく新しい。鎖につながれたら、鎖のまま歩く。十字架に張りつけられたら、十字架のまま歩く。牢屋にいれられても、牢屋を破らず、牢屋のまま歩く。笑ってはいけない。私・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・あれ、これと文学の敵を想定してみるのだが、考えてみると、すべてそれは、芸術を生み、成長させ、昇華させる有難い母体であった。やり切れない話である。なんの不平も言えなくなった。私は貧しい悪作家であるが、けれども、やはり第一等の道を歩きたい。つね・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・けれども、いつも痩せて小さく、髪の毛も薄く、少しも成長しない。 父も母も、この長男について、深く話し合うことを避ける。白痴、唖、……それを一言でも口に出して言って、二人で肯定し合うのは、あまりに悲惨だからである。母は時々、この子を固く抱・・・ 太宰治 「桜桃」
出典:青空文庫