・・・高随三四春草路三叉中に捷径あり我を迎ふたんぽゝ花咲り三々五々五々は黄に三々は白し記得す去年此路よりす憐しる蒲公茎短して乳をむかし/\しきりにおもふ慈母の恩慈母の懐抱別に春あり春あり成長して浪花にあり 梅は白し浪花橋辺財主・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂から四方の青白い天末までいちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互に交錯し光って顫えて燃えました。「ごらん、そら、風・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・「虔十、あそごは杉植ぇでも成長らなぃ処だ。それより少し田でも打って助けろ。」 虔十はきまり悪そうにもじもじして下を向いてしまいました。 すると虔十のお父さんが向うで汗を拭きながらからだを延ばして「買ってやれ、買ってやれ。虔十・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・然るに今日は既にビジテリアン同情派の堅き結束を見、その光輝ある八面体の結晶とも云うべきビジテリアン大祭を、この清澄なるニュウファウンドランド島、九月の気圏の底に於て析出した。殊にこの大祭に於て、多少の愉快なる刺戟を吾人が所有するということは・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・しかもそれは一人の前進的な人間の小市民的インテリゲンツィアからボルシェビキへの成長の過程であり、日本のプロレタリア解放運動とその文学運動の歴史のひとこまでもある。そのひとこまには濃厚に、日本の天皇制権力の野蛮さとそれとの抗争のかげがさしてい・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・「男の学生に比較すれば量において少いし、人間的生長といった面でも遅れているように見受けられます」と。わたしは正直なところこの御返事の気分に不満なのです。日本の女学校教育は特別なものであったから、共学がはじまってまだほんの僅かしかたたない今日・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 男性たちにしても、女が生きて来たと同じその歴史のうちで生長して来ているのだから、同じような感情のあいまいさや節度の不分明なところを弱点として持っているのは当然である。紛糾は女性が自分の感情の本質をはっきり知っていないことからひき起るば・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・わたしは自分の隅としてそこを愛し、謂わばその隅で生長したのであった。 日本女子大学の英文科予科に一学期ほどいたことがある。ここの学校でも心に刻まれているのは、構内の雑木林である。網野菊、丹野禎子という友達たちと、そこで喋った雑木林が・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ 私は、そのいずれもが、ゴーリキイ自身の発展の意義や彼と新しい歴史的世代の文学の生長との関係を、正当にとらえていないことを感じた。又、或るひとの感想の中には、ゴーリキイの盛大な葬送の光景を写真で見てプロレタリア作家としての幸福を思い、小・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・野に還し、不思議な清澄への我ノスタルジアを癒して呉れるのはお前の見えない心の扉ばかりだ。無限の世界の上にただ ひとひら軽く ふわりと とどまって居るお前耳を澄せば 万物の声が聴える眼をきよめれば 宇宙があ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
出典:青空文庫