・・・私の心覚えのある姓名の人であった。 洋服を着、何心なく来かかるその男を見ると、赤い着物の気の違った女の子は、いきなり腕をからみ合って居た私を突のけて、男の方へかけて行った。そして、手を執り、首をかしげて、頻りに何か頼んで居る。何処へ行く・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・要するに吉田首相とその乾分は世界のブルジョア政治家も裏面でしかあらわさないような男としての醜態を参議院で演出してもう民自党に投票してくれないでもいいんだということを天下に声明しました。 男が酒をのんで女にからむということは恐らく日本にだ・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・次大戦終了の後、漸々新婦人協会が治安警察法第五条の改正を議会に請願し、世界の社会情勢に押されて一九二二年その改正建議案は貴衆両院を通過したが、その三年後には当時の内閣が、婦人公民権に対してさえ不許可を声明したのであった。昭和五年と云えば、つ・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ルーズヴェルト未亡人が、トルーマンを支持しないという声明を出して、それが日本の新聞にも出るころから、デューイの元気そうな笑顔が世界の隅々まで流れひろがった。だけれども、ほんとに平和と民族の自立を渇望している世界の人々のこころは、不安を感じて・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 福田恆存にとっては、中国の人民が革命に勝利したこともどこまでがほんとかわからないことであったし、日本の国内で、日本の学者たち二十七名が非日委員会に反対の声明を行い、ひきつづき広汎な層をふくむ学者、有識人の全国的な「平和を守る会」を組織・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・こんにちの社会と文学の話として、なっとくしようとすれば、田村泰次郎が、きょうのすべての彼自身の現実について修正声明ぬきに、その意図として「『罪と罰』『ボァリー夫人』『女の一生』『凱旋門』に通じる道がひらけるに違いない」と確信しているというこ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・という一九三六年の声明に絶えずうなされながら猶且つ一般の国民の祖国を愛する真情に対しては第五列の意味をもっているケリリスの活動やドーデの活躍に余地を与えなければならなかった原因は、フランス経済・政治のどんな紛乱からであったかという事実までを・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 最近、五ヵ年計画の文化事業の一つとして劇場組織の大変革が声明された。СССРの全劇場を人民文化委員会の芸術部、職業組合、集団農場、中央部の完全な共同管理の下におくこと。劇場中心を、生産労働区域に移動さすこと。 これは、ソヴェトにお・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
「見る人のこころごころの秋の月」という文句がある。天にはただ一つしかない秋の月ではあるが、その月を眺めるひとの心のありようによって、清明な快い月であると思われるであろうし、月のさやけさに又かえって恨が深まるようなこともあろう・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・また、一度はそこで女優になろうとして後作家となって盛名をうたわれ、幾何もなくアメリカに去った田村俊子氏の生活経緯を見て居られることもあって、女性と芸術生活との問題については、それが特に日本の社会での実際となった場合、進歩的な見解の半面にいつ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
出典:青空文庫