・・・まだ二三日は命が繋がれようというもの、それそれ生理心得草に、水さえあらば食物なくとも人は能く一週間以上活くべしとあった。又餓死をした人の話が出ていたが、その人は水を飲でいたばかりに永く死切れなかったという。 それが如何した? 此上五六日・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・そうかといって僕らが行って整理をつけるとなると、畑だって山だって難かしいことになるからね、何しろおやじうまくやった、大出来だね」「まあそうでしょう。春になって雪でも消えたら一度桐でも伐りに行こうなんて、なかなか吹いてますよ」「それに・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・彼が彼女の膚に触れているとき、そこにはなんの感動もなく、いつもある白じらしい気持が消えなかった。生理的な終結はあっても、空想の満足がなかった。そのことはだんだん重苦しく彼の心にのしかかって来た。そのうちに彼は晴ればれとした往来へ出ても、自分・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・私の興味深く感じるのはその名前によって表現を得た私達の精神が、今度はその名前から再び鼓舞され整理されてくるということです。 私達はAの国から送って来たもので夕飯を御馳走になりました。部屋へ帰ると窓近い樫の木の花が重い匂いを部屋中にみなぎ・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ こうした感情は日光浴の際身体の受ける生理的な変化――旺んになって来る血行や、それにしたがって鈍麻してゆく頭脳や――そう言ったもののなかに確かにその原因を持っている。鋭い悲哀を和らげ、ほかほかと心を怡します快感は、同時に重っ苦しい不快感・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・そしてお徳の所有品は中の部屋の戸棚を整理けて入れたら」と細君が一案を出した。「それじゃアそう致しましょう」とお徳は直ぐ賛成した。「お徳には少し気の毒だけれど」と細君は附加した。「否、私は『中の部屋』のお戸棚へ衣類を入れさして頂け・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・手狭であるが全体がよく整理されて乱雑なさまは毛ほどもなく、敷居も柱も縁もよくふきこまれて、光っている。「御免なさい。」と武は上がり口の障子をあけたが、茶の間にだれもいない。「武です。」とつけ加えた。すると座敷で、「徳さんかえ、サ・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・婦人をその天与の生理にも、心理にも合わない労働戦線に狩り出して、男子のような競争をさせるのでなく、処女らしさ、妻らしさ、母らしさを保護し、育児と、美容とに矛盾しない範囲の労働にとどめしめることは、新しい社会の義務だと思うのである。天理の自然・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・プラトンのように寓話的なもの、ショウペンハウエルのように形而上学的なもの、エレン・ケイのような人格主義的なもの、フロイドのように生理・心理学的なもの、スタンダールのように情緒的直観的のもの、コロンタイのように階級的社会主義的のもの、その他幾・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ が、彼女は変調を来した生理的条件に、すべてを余儀なくされていた。「やちもないことをしてくさって、虹吉の阿呆めが!」 母は兄の前では一言の文句もよく言わずに、かげで息子の不品行を責めた。僕は、「早よ、ほかで嫁を貰うてやらんせ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
出典:青空文庫