・・・ このような例は過去の文化上の貴重な遺産の整理ということについて、決して笑話に終らない本質をもっていると思える。 ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・中には折角組合が自分たち働く者の全体としての条件の一つとしてかちとった婦人の生理休暇について、婦人たちを恥かしがらせるような批評をする人さえもある。実際今日組合は、婦人のために、つまり未来の妻と母のために、女性を保護する大切な生理休暇をかち・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 日本のファシズムは、本年に入ってから、特に国鉄をはじめとして大量の人員整理をはじめてから、ひどい勢いで各方面で人民生活をかみやぶりはじめました。 わたしたちの民族独立への希望や、文化の自立への希望――つまり独立した社会人として当然・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・女の子は汗じみたなりを辛抱しているという一つのことにしても、男の学生よりは生理的に心理的に苦痛が多いのです。日本のような社会の歴史をもったところでは、この矛盾のひどい中で悪に抵抗して力一杯生きようとしているけなげな若い女性のためには、男の人・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の庭に、木葉が掃いても掃いても溜まる頃であった。丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・それは生理的に実に自然に空を見上げているのだった。円い、何もない、ふかぶかとした空を。―― 高田の来た日から二日目に、栖方から梶へ手紙が来た。それには、ただ今天皇陛下から拝謁の御沙汰があって参内して来ましたばかりです。涙が流れて私は・・・ 横光利一 「微笑」
・・・それまでは旅行から得る新しい刺激によって、わずかに頭の整理を続けていた。――これは一八九一年、バアルがロシアに遊んだ時の事だ。 Luigi Rasi のデュウゼ伝によると、デュウゼの血は劇場の内に流れていた。彼女は「劇場の子」である・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・大学の池のまわりを歩きながら、自分の目が年のせいで何か生理的な変化を受けたのではないかと、まじめに心配したほどであった。 京都から時々上京して来たときにも、この緑の色調の相違を感じなかったわけではない。しかし三日とか五日とかの短い期間だ・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・痛苦を堪え忍ぶ時彼はこの生が生理的偶然に過ぎないという考えを悦ぶことができるか。――この問いに「否」と答える人の多いことはわかっている。しかし「しかり」と答える人もまた多数であることは否み難い。そこで問いを新しくする。人はこの常識以上に深い・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・逢いたい人々にも恐らく逢えまい。整理しておきたい事も今さらいかんともしようがない。自分の生涯や仕事について心残りの多いのは言うまでもない事だ。それでも私は静かに死ねるだろうか。黙って運命に頭を下げる事ができるだろうか。―― 私はこうして・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫