・・・考えだした美人投票が餌になったのだから、いってみれば、おれは呆れ果てたお人善し、上海まで行き、支那人仲間にもいくらか顔を知られたというおれが、せっせっと金米糖の包紙を廉い単価で印刷してやっていたことなぞ、自分でも忘れてしまいたいくらい、情け・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・が逃げて来てそういった時は、まさかと思いましたが、この子があなたそうっとのぞいて来て、母ちゃん、おっかねえ、本当に出刃磨いててよっていうもんだで、窓の外へ廻って見ると、ほんによ、暗い流しであっち向いてせっせ磨いでるだもん、おれ足がすくむよう・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・Bはうつむいて、せっせっと編みつづける。Aが旅人と一緒に丘のだらだら坂をあがって来る。Cが見つける。C ああ、Bちゃん、Bちゃん、 Aちゃんが来た事よ。B まあほんとにねえ。 あれ、誰だかよそ・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ こんな処に居るより倍も倍もいい気持ですよほんとうに――」「そうでしょうねえ、 でもテラテラした処を歩いて来たから斯うやって静かな間接に日光の入る処の方がいいんです。 せっせっと歩くと汗ばむ位ですもの。」「急いで来もしな・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
出典:青空文庫