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・・・ 某は当時退隠相願い、隈本を引払い、当地へ罷越候えども、六丸殿の御事心に懸かり、せめては御元服遊ばされ候まで、よそながら御安泰を祈念致したく、不識不知あまたの幾月を相過し候。 然るところ去承応二年六丸殿は未だ十一歳におわしながら、越・・・
森鴎外
「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
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・・・たとえ死が予期よりも早く自分の前に現われようとも、せめて現在に力の限りをつくしたという理由で、落ちついて運命に従うことができるだろう。そうしてなすべき事をなした人間の権利として永遠に人類の生命の内に生きる事もできるだろう。 これが私の覚・・・
和辻哲郎
「停車場で感じたこと」