・・・僕は僕のことでも頼んで出来なかったものを責めるような気になっていた。「本統よ、そんなにうそがつける男じゃアないの」「のろけていやがれ、おめえはよッぽどうすのろ芸者だ。――どれ、見せろ」「よッぽどするでしょう?」抜いて出すのを受け・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 義き事のために責めらるる者は福なり、其故如何となれば、心の貧しき者と同じく天国は其人の有なれば也、現世に在りては義のために責められ、来世に在りては義のために誉めらる、単に普通一般の義のために責めらるるに止まらず、更に進んで天国と其義の・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・すぐに縁談を断ってしまおうかとも思われましたが、もし、そうしたら、きっと皇子が復讐をしに攻めてくるだろうというような気がして、すぐには決しかねたのであります。 やさしい心のお姫さまは、片目であるという皇子の身の上をかわいそうにも思われま・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・昔は将棋指しには一定の収入などなく、高利貸には責められ、米を買う金もなく、賭将棋には負けて裸かになる。細君が二人の子供を連れて、母子心中の死場所を探しに行ったこともあった。この細君が後年息を引き取る時、亭主の坂田に「あんたも将棋指しなら、あ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・相手の木村八段にまるで赤子の手をねじるようにあっけなく攻め倒されてしまったのである。敗将語らずと言うが、その敗将が語ったのがこの語であった。無学文盲で将棋のほかには全くの阿呆かと思われる坂田が、ボソボソと不景気な声で子供の泣き声が好きだとい・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・今の苦痛……苦痛は兎角免れ得ぬにしろ、懐旧の念には責められたくない。昔を憶出せば自然と今の我身に引比べられて遣瀬無いのは創傷よりも余程いかぬ! さて大分熱くなって来たぞ。日が照付けるぞ。と、眼を開けば、例の山査子に例の空、ただ白昼という・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・私はどれほど皆から責められたかしれないのですよ。……お前の気のすむように後の始末はどんなにもつけてやれるから、とても先きの見込みがないんだから別れてしまえと、それは毎日のように責められ通したのですけれど、私にはどうしてもこの子供たちと別れる・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・と母を責めた。 母は弱らされていた。が、しばらくしてとうとう「そいじゃ、癒してあげよう」と言った。 二列の腫物はいつの間にか胸から腹へかけて移っていた。どうするのかと彼が見ていると、母は胸の皮を引張って来て(それはいつの間にか、・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・ 三円借せ、五円借せ、母はそろそろ自分を攻め初めた。自分は出来るだけその望に応じて、苦しい中を何とか工夫して出してやった。 月給十五円。それで親子三人が食ってゆくのである。なんで余裕があろう。小学校の教員はすべからく焼塩か何にかで三・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・そのような人格故に卑しむべしと評価することはもとより可能であり、その評価はたしかに人格価値の評価ではあるが、それは盗む鼠に対するのと同じ評価であり、彼にそれを禁じる動機が存しなかったからといって、彼は責められるわけはないはずである。このこと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫