・・・日本を中心として、アメリカ、中国、フィリッピン、濠州諸国の勤労大衆が一斉にプロレタリア文化の催しをやろう、そして、それぞれの国のブルジョア・地主の政府がめぐらす帝国主義戦争への悪煽動を蹴とばして、プロレタリア・農民の固い握手をとり交わそうと・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・ おいおい知覚されて来た刺戟によってピリピリと瞼や唇が顫動する。 やがて、ちょうど深い眠りから、今薄々と覚めようとする人のように、二三度唇をモグモグさせ、手足を動かすかと思うと、瞬きもしないで見守っていた禰宜様宮田の、その眼の下には・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・すべての新聞、ラジオ、出版物は嘘と分っている戦争煽動に動員された。そして十二月八日に太平洋戦争に突入した。十二月八日の払暁、戦争に対して反対の見解をもっていると思われていた千余名の人々が日本中で検挙された。私は十二月九日理由不明で駒込署に留・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・既に自然主義にはおさまれず、さりとて自身の伝統によって内田魯庵の唱導したような文学の方向にも向えず、新しい方向に向いつつ顫動していた敏感な精神の姿である。芥川の散文は教養のよせ木であり脆さが痛々しいばかりである。 最近十年間に登場した作・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・ こういうふうに、国際的に侵略戦争の煽動者であり、ファシズム思想の組織者であったと認められた人びとが、わたしたちの生活にたちまじってきたことについて、どう判断していいのでしょう。わたしは思います。このことは日本のわたしたちの民主主義への・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・ そして、若し我々が、自分を知り人生の大道に生きようとするだけの力があれば、自己の生命にあらゆる責任と義務とを感じて、軽々しく外界の刺戟、無責任な煽動によって破滅に導くことも、図に乗らせることも、ともになし得ないのではあるまいかと思う。・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ ある恐ろしい山道で一人の百姓が天狗に出遭った。天狗は既に烏天狗の域を脱して凄い赤鼻と、炬火のような眼をもった大天狗だ。天狗は百姓を見て云った。「ヤイ虫ケラ。俺に遭ったのは百年目だ。サア喰ってやるから覚悟しろ」 百姓は浅黄股引姿・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争発端」という題名の仮面の下にたくみに満蒙事件の拡大の可能を暗示しているあたり、毒々しいもの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・フランスとドイツとの伝統的な恨みというようなものは、芸術が交流して来たあとを見ても事実としては存在しないこと、その言葉は大衆の祖国愛を利己的に利用しようとする戦争煽動者の口ぐせにすぎないということを、フランスの若い世代はよく理解している。そ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・大阪ではこの太郎兵衛のような男を居船頭と言っていた。居船頭の太郎兵衛が沖船頭の新七を使っているのである。 元文元年の秋、新七の船は、出羽国秋田から米を積んで出帆した。その船が不幸にも航海中に風波の難に会って、半難船の姿になって、横み荷の・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫