・・・そうしてみるとさしあたり、紫紺についての先輩は、今では山男だけというわけだ。よしよし、一つ山男を呼び出して、聞いてみよう。」 そこで工芸学校の先生は、町の紫紺染研究会の人達と相談して、九月六日の午后六時から、内丸西洋軒で山男の招待会をす・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・文部、法務、特審関係、どこを見てもその指導的地位にいるものは、大学の第何期生かであり先輩である。過去の大学に、もしアカデミアの精神が伝統するというならば、これらの人々が現在、大学とその教授、学生――即ちわたしたち人民に向って示す精神のどこに・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・しかし、同じ戦敗のドイツの中でも、そしてあの世界史的なドイツのインフレーションの中でも、第一次大戦によって軍需成金となった新興財閥は存在した。それら一握りの新マーク階級の人々は彼等の特権にとって有利でない人民的な生産様式にドイツの社会が進化・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 世界の歴史は、被うところなく告げている。戦敗後のインフレーションと食糧危機に当って、その国の無産婦女子の生活が惨憺たるものにならなかった例は、ほとんど皆無であることを。 さらに、世界の現実は、はっきりと示している。一般失業問題が深・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・素とフウフェランドは蘭訳の書を先輩の日本訳の書に引き較べて見たのであるが、新しい蘭書を得ることが容易くなかったのと、多くの障碍を凌いで横文の書を読もうとする程の気力がなかったのとの為めに、昔読み馴れた書でない洋書を読むことを、翁は面倒がって・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・素直にその感じを現わそうとする芸術家的ないい素質がある。先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟子として着実に努力せられんことを望む。 ――例外の一と二とに現われた二つの道が日本画を救い得るかどうか。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫