・・・教育者であるという素因の私に欠乏している事は始めから知っていましたが、ただ教場で英語を教える事がすでに面倒なのだから仕方がありません。私は始終中腰で隙があったら、自分の本領へ飛び移ろう飛び移ろうとのみ思っていたのですが、さてその本領というの・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・あの日の命令者は、人類の平和にたいする罪悪的命令者であったということを、彼らの有罪訴因として読みあげられた十数年間にわたる彼らの行為のかずかずからあらためてこころにうちこまれた。 人類にたいして犯された侵略的な謀議の罪はさばかれた。けれ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・つまりこの事件のファクター、素因のプロパーとして特殊の事情として、普通ではわからない心理が充子という人の気持にあります。 それから観察しているでしょう。こうやって見ていたら、顔を見ていたらだんだん黒くなってきた。そうして足を出したと、そ・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・とこの大森氏の感想文とをあわせ読み、私は、日本における左翼運動が、世界独特な高揚と敗北の過程をとっている、その一般的な歴史的素因の複雑さを、裏からはっきりと、透して見せられたように感じた。何故なら、石坂氏が一プロレタリア作家牧野に最大限の階・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・このように、ソヴェト同盟という社会主義社会では、一人一人の男女市民がその能力・才能と生活経験において独特な幅と質とを賦与されているという事実を、しいて無視し、さげすみ、誹謗して自身の壊滅の素因をつくったのがナチスであった。 こんどの大戦・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・その善行なり、悪行なりの素因を万人は彼等の心事に見出そうとするように、私共が、或る国民の生活を観察する場合、漠然となりとも正鵠を得た、民族的気質を知らなければいけないと思うのです。 それなら、米国人は、どんな気質、性格を持っているでしょ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・既に結婚した者の多数は、大抵の場合、今日、それ等の論議を高声ならしめた素因を、過去幾年かの昔に蒔いている。或る者は、奇怪な道徳感によって、家のために殆ど憎しみを感じる程の異性と配せられたものもあろう。 或る者は、打算的な賢明さから、人格・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・これは、磨ぎ澄まされ偏見を脱して輝く精神力や、それを盛るところの疲れを知らず倦怠を知らない原始生命的な男女の肉体を予想し、一部の人の間にローレンスの作品等がもてはやされるロマンティックな空想の素因をなしている。 私の疑問というのは、恋愛・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
出典:青空文庫