・・・そこにはいままで局の倉庫にあった大きな鉄材が、すっかり櫓に組み立っていて、いろいろな器械はもう電流さえ来ればすぐに働き出すばかりになっていました。ペンネン技師の頬はげっそり落ち、工作隊の人たちも青ざめて目ばかり光らせながら、それでもみんな笑・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 突然向こうのまっ黒な倉庫が、空にもはばかるような声でどなりました。二人はまるでしんとなってしまいました。 ところが倉庫がまた言いました。「いや心配しなさんな。この事は決してほかへはもらしませんぞ。わしがしっかりのみ込みました」・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・―― だらだら坂を海岸の方へ下る。倉庫が並んでいる。レールが敷いてある。馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が繋留されている。それが我等を日本へつ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・十余年の昔、夫ピエールと二人で物理学校の中庭にある崩れかけた倉庫住居の四年間、ラジウムを取出すために瀝青ウラン鉱の山と取組合って屈しなかった彼女の不撓さ、さらに溯ってピエールに会う前後、パリの屋根裏部屋で火の気もなしに勉強していた女学生の熱・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・「町ソヴェトの倉庫んなかに、元絹問屋の客間にあったっていう、でっかい絵があるぜ」「ふーむ。どんな絵だい?」「なんでも黒い髪をたらした女が踊ってるんだ、半分裸でよ。その女の前にある皿に、男の首がのっかってるんだ」「俺等そんな絵・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・彼は空壜の積った倉庫の間を通って帰って来るとそのまま布団の中へもぐり込んで円くなった。 彼は雑誌を三冊売れば十銭の金になることを知っていた。此の法則を知っている限り、彼は生活の恐怖を感じなかった。或る日彼はその三冊の雑誌を売って得た金を・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫