・・・日本人と云う総称が、其の裡に無数の箇性的差異を包含して居る通り、人類と云う響は又其の内に、箇々の民族的差異をも暗示して居ります。 其故私は、国民的名称の差異に意識無意識に左右された批評は好みません。私は米国人とその名を以て、その約束的符・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・り合わせた、見て居て、自分もくすぐったくなる程〔欄外に〕 よく見るとうるしの刷目のようなむらさえ頭や翅にあり、一寸緑色がぼやけて居るあたりの配色の美、 田舎の寺の和尚・宗匠 何でも云いたいことを十七字・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・釣月軒として一人前の宗匠であったろう。青年宗匠として彼の才分は、もし生計を打算したら大阪で生活しても行けるだけのものであったろうのに、宗房釣月軒はどんな心持から江戸へ目を向けたのだろうか。江戸へ老後の安楽を求め、立身出世の道を求めて来たとす・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・衆は現代の諸矛盾を八方からその身に受けて照りかえしつつ日々夜々を生きているのであって、自身の置かれているこの社会での場所を、昨今一部の作家が殆ど一種のエキゾチシズムをも加えて云うかと思われる民衆的なる総称の下に、強ち鼓腹撃壤しているのでもな・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫