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・・・ 重吉は夢中で怒鳴った、そして門の閂に双手をかけ、総身の力を入れて引きぬいた。門の扉は左右に開き、喚声をあげて突撃して来る味方の兵士が、そこの隙間から遠く見えた。彼は閂を両手に握って、盲目滅法に振り廻した。そいつが支那人の身体に当り、頭・・・
萩原朔太郎
「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
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・・・ 大きな雄鶏である。総身の羽が赤褐色で、頸に柑子色の領巻があって、黒い尾を長く垂れている。 虎吉は人の悪そうな青黒い顔を挙げて、ぎょろりとした目で主人を見て、こう云った。「旦那。こいつは肉が軟ですぜ。」「食うのではない。」・・・
森鴎外
「鶏」