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・・・そうして月は、その花々の先端の縮れた羊のような皺を眺めながら、蒼然として海の方へ渡っていった。 そういう夜には、彼はベランダからぬけ出し夜の園丁のように花の中を歩き廻った。湿った芝生に抱かれた池の中で、一本の噴水が月光を散らしながら周囲・・・
横光利一
「花園の思想」
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・・・そのころ私は鵠沼に住んでいた関係で、あまりたびたび木曜会には顔を出さなかったし、またたまに訪れて行った時にはその連中が来ていないというわけで、漱石生前には一度も同座しなかった。従ってそういうことに気づいたのは漱石の死後である。 木曜・・・
和辻哲郎
「漱石の人物」