・・・今では発動機船に冷蔵庫と無電装置を載せて陸岸から千海里近い沖までも海の幸の領域を拡張して行った。 魚貝のみならずいろいろな海草が国民日常の食膳をにぎわす、これらは西洋人の夢想もしないようないろいろのビタミンを含有しているらしい。また海胆・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・真正の音楽狂はワグネルの音楽をばオペラの舞台的装置を取除いて聴く事をかえって喜ぶ。しかしそれとは全然性質を異にする三味線はいわば極めて原始的な単純なもので、決して楽器の音色からのみでは純然たる音楽的幻想を起させる力を持っていない。それ故日本・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆発の点火をすることだった。だが彼の作業を終った時に、重吉の勇気は百倍した。彼は大胆不敵になり、無謀にもただ一人、門を乗り越えて敵の大軍中に跳び降りた。 丁度その時、辮髪の支那兵たちは、物悲し・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・入ったが最後どうしても出られないような装置になっていて、そして、そこは、支那を本場とする六神丸の製造工場になっている。てっきり私は六神丸の原料としてそこで生き胆を取られるんだ。 私はどこからか、その建物へ動力線が引き込まれてはいないかと・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・杏やすももの白い花が咲き、次では木立も草地もまっ青になり、もはや玉髄の雲の峯が、四方の空を繞る頃となりました。 ちょうどそのころ沙車の町はずれの砂の中から、古い沙車大寺のあとが掘り出されたとのことでございました。一つの壁がまだそのままで・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・それからすぐ眼の前は平らな草地になっていて、大きな天幕がかけてある。天幕は丸太で組んである。まだ少しあかるいのに、青いアセチレンや、油煙を長く引くカンテラがたくさんともって、その二階には奇麗な絵看板がたくさんかけてあったのだ。その看板のうし・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・老技師は山腹の谷の上のうす緑の草地を指さしました。そこを雲の影がしずかに青くすべっているのでした。「あすこには熔岩の層が二つしかない。あとは柔らかな火山灰と火山礫の層だ。それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作な・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・「きっとできる。装置には三日、サンムトリ市の発電所から、電線を引いてくるには五日かかるな。」 技師はしばらく指を折って考えていましたが、やがて安心したようにまたしずかに言いました。「とにかくブドリ君。一つ茶をわかして飲もうではな・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・また、普通の顕微鏡で見えないほどちいさなものでも、ある装置を加えれば、 約〇、〇〇〇〇〇五粍 くらいまでのものならばぼんやり光る点になって視野にあらわれその存在だけを示します。これを超絶顕微鏡と云います。とこ・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まわりは立派なオリーブいろのかやの木のもりでかこまれてありました。 その草地のまん中に、せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて手に革鞭をもって、だまってこっちをみていたのです。・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
出典:青空文庫