・・・六に多言にて慎なく物いひ過すは、親類とも中悪く成り家乱るゝ物なれば去べし。七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富貴なる夫に嫁すとも、女の道に違て大なる辱なり。 男子が養子に行くも・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・等閑に看過す可らざる所のものなり。新女大学終左の一篇の記事は、女大学評論並に新女大学を時事新報に掲載中、福沢先生の親しく物語られたる次第を、本年四月十四日の新報に記したるものなり。本著発表の由縁を知るに足るべきを以て・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・女らしさというものの曖昧で執拗な桎梏に圧えられながら生活の必要から職業についていて、女らしさが慎ましさを外側から強いるため恋愛もまともに経験せず、真正の意味での女らしさに花咲く機会を失って一生を過す人々、または、女らしき貞節というものの誤っ・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 丁度目の前を製糸工場、赤いバラの労働婦人群が通過するところである。女を台所から解放しろ!生産経済計画を実現しろ!五ヵ年計画を四年で! これらスローガンを書いた赤い横旗を捧げて行く二人の女は、コーカサスの風俗をし・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 美を少しも愛さぬと同時に、それについて何の意見も持たない人は、世の中の非常に高尚な一面を、一生見ずに過す事になる。 私の意見では、自分の部屋はあくまで自分の箇性の表われた美くしさで充分飾られて居なければならない。 其故に私は、・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・ 家庭からは引はなされ、自分の仕事にあくせくと追い廻されながら、せま苦しい只一室を巣として、注ぐべき愛をことごとく幽閉して過す毎日は、遠く故国に自分を待って居る、「彼の女性」に対して、云うばかりない懐しさを抱かせるでございましょう。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・キノがある――記念すべき一晩をゆっくり、集団的に、楽しみの裡に階級的意識を鼓舞されつつ過すのだ。 ――……ソヴェトの労働者たちが世界プロレタリアートにとっての記念日だけを本当の祭日にしてるところは、さすがだ。そして、その祭日の過しかたも・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・ こうして一家揃って一ヵ月を有益に健康に過す。ソヴェト同盟の勤労者が各人一ヵ月を楽しく過す夏の費用は、国家計画部が、ちゃんと一年間の労働保護費へ加算して、各企業の予算へふり当ててあるのだ。〔一九三一年九年〕・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・ 自分が、この自分以外の誰でもない私が過す一生の、この大切なこのごろを、ただ彼等の手元にあるときほか責任をもたない人に、一時的な、皮相的な教訓と、非難することは知っていても、ほんとに「その人」を育てることが出来ない人々に、自分の全部をあ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
さほど長くない学生生活の間で、特に印象ふかかったことと云って何があるだろう。 女学校におれば、ちょうど十三四から人生を感じ始める十八九までの数年を過すのだから、善かれ悪しかれ、個人として思い出すことごとが、決してないと・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
出典:青空文庫