・・・「あら本気なの、陽ちゃん」といった。「本気になりそうだわ――ある? そんな家……もし本当にさがせば」「そりゃあってよ、どこだって貸すわ、でも――もし来るんならそんなことしないだって、家へいらっしゃいよ」「二三日ならいいけ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・「あの一番池の北の堤の下の松林のわきにあるそりゃあみじめな家なんだよ」とおっしゃる。見えないとは知りつつ一番池のけんとうを見る。清の家はかげも形も見えなく只向う山が紫の霞にとざされているの許がはっきり目に見える。熟柿くさい息をハーハー吸きな・・・ 宮本百合子 「同じ娘でも」
・・・ 会う人毎に、「そりゃあ、大きな可愛い児でございますよ。と云って、来た人には抱いて見せ、行った先では身振りまでして、話して聞かせた。 たまらなく可愛いので、やたらに抱くので、もう私と看護婦の手を覚えて、どんなに泣いて居ても、・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ 圭子が持ち前のずばっとした調子で、「そりゃあ大分見当のつけ方が違っているようだな」と云った。千鶴子は圭子にそう云われると自尊心を傷けられた表情をした。はる子はその露骨な顔を見たら、千鶴子がどこまで生活、人生を妙な角度で感じてい・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・夜中は震えますってさ。そりゃあひどく震うんですって。余り震えるからって、うちへ来なさいましたから古洋服だの靴まで貰ってよろこんでかえりなさいましたよ。偉いんですよ。気違いじゃあないんです。少し頭が変なんです。この間来なすった時、明治神宮の前・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・俺達の仕事で彼処まで大仕掛けに成功したのは一寸ないね。そりゃあ、人間が今でも云い伝えているそうだが、あの若者のカインに、始めてアベルを殺させたのも手柄の一つには違いないが、規模の壮大さで比較にならぬ。ミーダ 然し手間はかかったな。俺の一・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 今夜私の御家へとめて頂戴って。 そいでね、御馳走してあげるから私達にお話して頂戴ってお約束したのよ。 ねえ、おじさん。B まあそう。 そりゃあ、ほんとに面白いわ。 さあ聞かせてちょうだいな。A、Bは旅人の傍・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・「見つけたねえ。」「そりゃあそうさ! こっちを見て笑ったんだもの。」 二人はほんとうに只好い天気に誘われて子供っぽい悪戯をしたにすぎなかったけれ共気の小さい肇はこんな処からのぞき見なんかして居た事を千世子は必ず気持悪く思って・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 彼の温室の前の方へ立ってズーッと彼方を見渡すと、多勢の人が歩き廻って居る時には左程にも思いませんけれ共、木の梢も痩せ草も末枯れて居ておまけに人っ子一人居ないのですからもうそりゃあそりゃあ広くはるかに見えます。 私でさえ一種の緊張を・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
・・・「そりゃあ、誰だって他人のして居る仕事は易しくって苦労がなくっていい様に羨しい様な気がするにきまってる。 でもまあ、自分の仕事に、不平があったり何かするからこそいいんで若しそうででもなかったらそれこそほんとうに可哀そうだ。 悟り・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫