-
・・・春の夜の曹司はただしんかんと更け渡って、そのほかには鼠の啼く声さえも聞えない。 阿闍梨は、白地の錦の縁をとった円座の上に座をしめながら、式部の眼のさめるのを憚るように、中音で静かに法華経を誦しはじめた。 これが、この男の日頃からの習・・・
芥川竜之介
「道祖問答」
-
・・・これは附添の雑仕婦であったが、――博士が、その従弟の細君に似たのをよすがに、これより前、丸髷の女に言を掛けて、その人品のゆえに人をして疑わしめず、連は品川の某楼の女郎で、気の狂ったため巣鴨の病院に送るのだが、自動車で行きたい、それでなければ・・・
泉鏡花
「売色鴨南蛮」