本年の建国祭を期して文化勲章というものが制定された。これは人も知る如く日本で始めてのことである。早速絵では竹内栖鳳や横山大観がその文化勲章を授与され、科学方面でも本多博士その他が比較的困難なく選ばれた。文学の分野に於ては、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・三木清氏なども、ヒューマニズムへの情熱の必要を唱え、青年達が、大人の青年論に対して、冷淡であること、俗的日常主義に堕した気分の中で生活を引ずっている現象を、誤った客観主義と日本独特の東洋的諦観に害された自然主義的リアリズムとの結合と観察して・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 鴎外は漱石とまたちがい、この文学者のドイツ・ロマン派の教養や医者としての教養や、政府の大官としての処世上の教養やらは、漱石より一層彼の人間性率直さを被うた。彼が最後の時期まで博物館長として、上流的高官生活を送ったことは、彼に語らせれば・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・作品を貫いて流れているものは荷風年来の諦観である。その諦観にふさわしく統一された芸の巧さがあるにしても、若い作家たちまでがその驥尾に附して各自の芸術の行手にそれを仰ぐとすれば、それは奇怪と云わなければなるまい。当時の文学の混乱もこの頃云わば・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・百万円をかけて、日本文化大観を編纂するのもよいであろう。しかしこの事業内容が発表された時、先日来、山川菊栄女史によって発表されていた現代日本の女学生気質についての批判をおのずから思いおこした人が、決してすくなくなかったであろうと思う。 ・・・ 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
・・・に取扱われているそれとは全く反対の生ぬるい、澱んだ、東洋風の諦観に貫かれているのでもなければ、フィリップの作のように、生活への愛に満されているのでもない、ずるずるべったりの売笑婦とその連合いとの生活を描く作者の心境に対してはっきりした軽蔑を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・法隆寺の壁画を思いだします。大観の絵と違った世界があることを感じます。この課題が日本画家たちによって、どう解かれてゆくでしょうか。 内田巖さんのお母さんを描かれた二枚の肖像、永井潔さんの蔵原さんの肖像と男の像、なにか印象にのこります・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・ 茶料理で有名であり、河童忌や大観の落書きで知られた天然自笑軒が出来たのは、大正のことで、女中が提灯を下げて送って出るその門は、同じ田端でもずっと渡辺町よりにあった。 漱石は、本郷の千駄木町に住んでいたので初期の作品にはどれもよく団・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 在来の所謂支那通の人の書くものを読むと、中国の民衆の心持の中に一番つよくあるのは、昔、ロシア人の気質は何につけてもニーチェヴォであると云われていたと同じような一種のどうでもよい主義の諦観であると語られているのであるが、果してそれはどう・・・ 宮本百合子 「中国文化をちゃんと理解したい」
・・・この寺は、建物も大観門から青蓮堂――観音廟を見たところ、同じ辺から護法堂へ行く窟門の眺めなど、趣き深い。永山氏の紹介で、現住三浦氏が各建物を案内し大方丈の戸にある沈南蘋の絵を見せて呉られた。護法堂の布袋、囲りに唐児が遊れて居る巨大な金色の布・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
出典:青空文庫