・・・――病院の下の木造家屋の中から、休職大佐の娘の腕をとって、五体の大きいメリケン兵が、扉を押しのけて歩きだした。十六歳になったばかりの娘は、せいも、身体のはゞも、メリケン兵の半分くらいしかなかった。太い、しっかりした腕に、娘はぶら下って、ちょ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・会社に関係のある予備陸軍大佐の娘を妻に貰った。 為吉とおしかは、もうじいさん、ばあさんと呼ばれていいように年が寄っていた。野良仕事にも、夜なべにも昔日のように精が出なくなった。 債鬼のために、先祖伝来の田地を取られた時にも、おしかは・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・藤さんの家は今佐世保にあるのだそうで、お父さんは大佐だそうである。「それでは佐世保からはるばる来たんですか」「いいえ、あの娘だけは二た月ばかり前から、この対岸にいるんです。あなたでも同じですけれど、こんなになると、情合はまったく本当・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・査閲がすんで、査閲官の老大佐殿から、今日の諸君の成績は、まずまず良好であった。という御講評の言葉をいただき、「最後に」と大佐殿は声を一段と高くして、「今日の査閲に、召集がなかったのに、みずからすすんで参加いたした感心の者があったという事・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・る有頂天の姿には、いまだ愛くるしさも残りて在り、見物人も微笑、もしくは苦笑もて、ゆるしていたが、一夜、この子は、相手もあろに氷よりも冷い冷い三日月さまに惚れられて、あやしく狂い、「神も私も五十歩百歩、大差ござらぬ。あの日、三伏の炎熱、神もま・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・彼は陸軍大佐となり王党の国会議員となり、Duke of Leinster の娘の Lady Fitzgerald と結婚した。これがここに紹介しようとする物理学者レーリー卿の祖父である。勲功によって貴族に列せられようという内意があったが辞退・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・見てしまえば別に何処が面白かったと言えないくらいなもので、洗湯へ行って女湯の透見をするのと大差はない。興味は表看板の極端な絵を見て好奇心に駆られている間だけだと言えばいいのであろう。われわれ傍観者には戦争前にはなくて戦敗後に現れて一代の人気・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・は違うが、比例に至っては同じことであるごとく、昔の人間と今の人間がどのくらい幸福の程度において違っているかと云えば――あるいは不幸の程度において違っているかと云えば――活力消耗活力節約の両工夫において大差はあるかも知れないが、生存競争から生・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・など置きたると大差なけれど、なお漢語の方適切なるべし。 第三は支那の成語を用うるものにして、こは成語を用いたるがために興あるもの、または成語をそのままならでは用いるべからざるものあり。支那の人名地名を用い、支那の古事風景等を詠ずる場合は・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・馬はね、馬は大佐にしてやろうと思うんです」 おっかさんが笑いながら、 「そうだね、けれどもあんまりいばるんじゃありませんよ」と申しました。 ホモイは、 「大丈夫ですよ。おっかさん、僕ちょっと外へ行って来ます」と言ったままぴょ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
出典:青空文庫