・・・今日、豊年という日本の秋には、深刻な失業の問題が私たちをおびやかしていてその対象は先ず婦人青年です。国鉄を見てもそれはすぐわかります。この間の踊を熱中したのはどんな人々でしたろう。若い婦人若い男の人たちでした。太鼓は鳴ります。うたがきこえま・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・の属していた文学の団体は解かれて、その前後の時代的な社会と文学との波瀾の間で小熊さんの諷刺性は、周囲の刺激に対して鋭く反応せずにいられない特性とともに、何処となく諷刺一般におちいった傾が現れたと思う。対象の含んでいる種々の複雑な価値について・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・それ以来樋口一葉をはじめ、明治大正を通じて今日までには幾人か、相当の文学的業績をもつ婦人作家がある。が、日本の民主的な文学の流れは、昭和のはじめ世界の民主主義の前進につれて歴史的に高まり、プロレタリア文学の誕生を見た。その当時、その流れの中・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大正前後、第一次欧州大戦によって日本の経済の各面が膨脹したにつれて、いくつかの大新聞は純然たる一大企業として、経営される・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・ちょうど人間が胎児であったとき、その成長の過程で、ごく初期の胎生細胞はだんだん消滅して、すべて新しい細胞となって健康な赤ん坊として生れてくる。けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・という親心と息子の心を吸収して、百姓の息子でも、軍人ならば大将にだって成れる道として、軍国日本に軍人の道が開かれていたのである。日本の大学は、人類の理性と学問に関するアカデミアであるより以前に、官僚と学閥の悪歴を重ねた。見えない半面で軍国主・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ 男のひとにしろ、そういう社会的な障害にぶつかった場合、やはりとかく不満や居心地わるさの対照に女をおいて、女らしさという呪文を思い浮べ、女には女らしくして欲しいような気になり、その要求で解決がつけば自分と妻とが今日の文明と称するもののう・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・一応文学趣味を今日も満足させている芥川龍之介の散文が、教養的であっても、極めて脆い体質をそなえていることなどと著しい対照をも示すわけだろう。 藤村の歿後、何かの新聞に島崎鶏二氏の書いた文章を見かけた。そして生涯精励であるいかなる作家も、・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・監督の意図では沙漠というものの持つ広大な自然力と小さい人間との対照、並に小さい躯に盛られている人間の自然に対する闘争力を描いて、中尉ルドヴィッチの人間的再出発の説明にあてようとしたのであったかも知れない。残念ながらこの意図は完全に失敗してい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・長篇が本質の貧寒さから、時流におされて素材で押し出す傾に陥った対症として、作家が真のモティーヴをもって描く短篇のうちにのこされた文学性がかえりみられたのであった。 しかし、短篇であるにしろ従来の私的身辺小説であるまいとする努力はすべての・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫