・・・雲雀は石山に高く囀って、鼓草の綿がタイヤの煽に散った。四日町は、新しい感じがする。両側をきれいな細流が走って、背戸、籬の日向に、若木の藤が、結綿の切をうつむけたように優しく咲き、屋根に蔭つくる樹の下に、山吹が浅く水に笑う……家ごとに申合せた・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ケレンスキーが、星条旗のひるがえるアメリカ大使館用自動車――四つのタイヤに支えられた数平方メートル内の治外法権を利用してガッチナへ遁走した。二十五日の夜中、三十五発の砲弾がこの広場の上を飛び、一七六八年このかた、初めて冬宮の「黄金の広間」「・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・それだから、これらの留置場では、理屈を云わせないために、一寸した口ごたえをしようとしても、看守はその留置人をコンクリートの廊下へひきずり出して、古タイヤや皮帯で、血の出るまで、その人たちが意気沮喪するまで乱打して、ヤキを入れた。殴る者のいな・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・そして、すべての機会をのがさず、コンクリートのせまい廊下へひきずりだして、古タイヤのなかの赤いゴム・チューブで、留置者をひっぱたくのだった。女でも、ひろい室の真中に一列に正座させて、どこにも背中のもたせられないようにし、すこし居眠りしている・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
出典:青空文庫