・・・これは、天降り風な大衆のための文学創作に抗して、自身のこの社会での生れ、在り場所、生きかたから、書かれるものはおのずから誇高き庶民の文化であることが標榜されている。武田麟太郎氏がそのトップに立っているのである。 然しながら、ここで云われ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・その報告は拍手を浴びたが、畑陸相の声はなかなかききとり難い。武田信玄が万軍を動かした音吐の見事さは歴史にも語られているが、現代の将軍にその必要もないと見えて議席のあちこちから盛んに、もっと大きい声で願いまアす、聴えませんという声がかかる。聴・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・この春ごろだったか、作家の武田麟太郎氏が、或る短い文章のなかで、何をッの意気について書いていられた。乗物の中へ一人の男が入って来た。そして、或る夫婦ものとそのとなりの勤人風の男との間にある僅の隙間へ、ぎゅっとわり込んだが、もとより大人一人分・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・甲斐の武田勝頼が甘利四郎三郎を城番に籠めた遠江国榛原郡小山の城で、月見の宴が催されている。大兵肥満の甘利は大盃を続けざまに干して、若侍どもにさまざまの芸をさせている。「三河の水の勢いも小山が堰けばつい折れる。凄じいのは音ばかり」・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ この書は、それ自身の標榜するところによると、武田信玄の老臣高坂弾正信昌が、勝頼の長篠敗戦のあとで、若い主人のために書き綴ったということになっている。内容は、武田信玄の家法、信玄一代記、家臣の言行録、山本勘助伝など雑多であるが、書名から・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派の作品など、尤物ぞろいであったが、文人画にも大雅、蕪村、竹田、玉堂、木米などの傑れたものがたくさんあった。あれを見たら先生はさぞ喜ぶだろうと思ったのである。 私はその話を漱石・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫