・・・ この年六月十八日にマクシム・ゴーリキイがその多彩多産な六十八年の生涯をモスクで終ったことは、世界に少なからぬ感動をつたえた。ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ナポリの、多彩な、陽気な、歌ずきで騒々しい、花と景物にあふれた市場の賑いを描くとき、私どもは決して、ノールウェイの荒涼としたフョールドを描写する感情で描写することはできない。そしてまた、フョールドばかりを眺めて育った人がナポリに来てうける感・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・のスローガンの社会的実践によって導き出されて来た新しい労働者農民作家群の輩出、社会主義建設がすすむにつれて顕著なインテリゲンチア作家の階級的移行、有能な新幹部の多種多彩な文学的活動と、より広汎な人民層のプロレタリア化の可能性を、より高い見地・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・ヒューマニズムという言葉をきいた時、誰の胸にも浮ぶのはヨーロッパ文化に於ける文芸復興時代のヒューマニズムの多彩な開花であろう。ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々の軛からの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・私たちの頃は、自然が体も心も多彩にひろがろう、触れよう、知ろうという欲望に燃え立たせているのに、周囲の習慣はなかなかそれだけのびのびしていなくて、いつも鬱屈するものがあった。今のひとは、いざとなると同じ埒で阻まれながら、表面の浅い日常では一・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・その意味では昨今の地球の呻きは人間ぽさに咽せるばかりであるわけだが、文学が、人と人とのいきさつとして益々多彩にその姿をつかまず、却って生物的な面へ人間を単純化して、現代の禍福をも語ろうとする傾向を一方に生じていることは私たちを深く考えさせる・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・ 雁金のかわりに、こけつまろびつしつつも、結局は行動性のチャムピオンであるそのような人物が試験管に投げこまれれば、久内はもっと沸騰し、上下に反転し、煙を立て、作者の知的追求に対しておびただしい多彩な醗酵の過程を示さざるを得なかったに違い・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・一八八三年、六十五歳の時脊髄癌を病ってパリで死ぬまで、ツルゲーネフは有名な農奴解放時代の前後、略三十年に亙るロシアの多難多彩な社会生活と歴史の推進力によって生み出される先進的な男女のタイプとを、世界的に知られている小説「猟人日記」、「ルージ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 母の一生は女ながらいかにも活々と、多彩に、明治八年頃から今日に至る略六十年の間に日本の中流の経験した経済的な条件、精神的な推移の歴史を反映している。母はめずらしく強烈な性格の女性であり、人間としての規模も小さくなかった。母の属した・・・ 宮本百合子 「母」
前書 一九三六年六月十八日。マクシム・ゴーリキイの豊富にして多彩な一生が終った。恰度ソヴェト同盟の新しい憲法草案が公表されて一週間ほど後のことであった。ゴーリキイはこの新憲法草案の公表によって引き起さ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫