・・・ 当時、日本の文学は、白樺派の人道主義文学の動きがあり、他方に、自然主義が衰退したあとの反射としておこった新ロマンティシズムの文学があった。谷崎潤一郎の「刺青」などを先頭として。同時に『新思潮』という文学雑誌を中心に芥川龍之介が「鼻」「・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・ 活溌な闘争にしたがう世界のプロレタリアートは、だから一方にはブルジョア社会への攻撃の武器として、他方には自己批判の武器として、諷刺をアレゴリーとはくらべものにならない効果で利用しているわけなのである。 プロレタリア文学の形式の多様・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・を連載しつつ、他方に「彷徨える女の手紙」「女の産地」等の小説を発表し、両者の間に見られる様々の矛盾によって、プロレタリア文学者へのいくつかの警告となったのであった。 能動精神の提唱から派生した以上のような諸問題が、夥しい作家、評論家によ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・第一は、只さえも保守的な退嬰主義に堕し易い女性一般の傾向を暗々裡に称揚する事になると同時に、他方では、一層反動的、爆発的の急進を促す事になるからでございます。其で、私は此から、私の出来る丈の細密な思考を廻らして、私の出来る丈公平な、出来る丈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・今日までの婦選が一方において中流的な婦人層の政治的な成熟の形となって完成されず哀れや蔕ぐされて落ちた如く、他方勤労的婦人の生活の声も組織されず、昭和十三年の婦人年表には、母子保護法実施とならんで婦人の坑内労働復活という二つの矛盾した事項が肩・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・それによって、幾年かの婚約を先ず予備するもの、或は、双方の重要な条件が相容れないためもう最後の一歩と云う点で失望に終るもの等、一方、軽々しく、まるで小荷物の郵送でもするような結婚があると思えば、他方には、苦しい、深刻な場面が展開されているの・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・極度に敏感になった心には、微かな濃淡も強すぎるほどに響くのである、一方でワグナアの音楽が栄えながら他方でメエテルリンクの劇が人心をひきつけた事実は、今なお人の記憶に新しいであろう。静かな、聞こえるか聞こえないほどの声で、たましいの言葉を直接・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・しかるに他方には『本佐録』あるいは『天下国家の要録』と名づけられた書物があって、内容は右の『五倫書』と一致するところが多い。これは本多佐渡守の著と言われながら、早くより疑問視せられているものである。新井白石は本多家から頼まれてその考証を書い・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・体は横の方へ垂れ、頭は他方の手でささえて、眼は鈍い焔のように見える。「全身が考えている。」Whole Body thinks. そして思索のために物悲しい影の浮かんでいるその顔は、人の世のあらゆる情熱が彼女の血と肉とによって幾度となく通り過・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・が、たとい稚拙であるにもしろ、その想像力が、一方でわが国の古い神話や建国伝説などを形成しつつあった時に、他方ではこの埴輪の人物や動物や鳥などを作っていたのである。言葉による物語と、形象による表現とは、かなり異なってもいるが、しかしそれが同じ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫