・・・「殖えられて溜まるものか」と、犬塚は叱るように云って、特別に厚く切ってあるらしい沢庵を、白い、鋭い前歯で咬み切った。「木村君、どうだろう」と、山田は不安らしい顔を右隣の方へ向けた。「先ずお国柄だから、当局が巧に柁を取って行けば、・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・「ええ。」「お前さんの外にも、冬になってあの家にいる人があるかね。」「わたくしの外には誰もいません。」 己はぞっとしてエルリングの顔を見た。「溜まるまいじゃないか。冬寒くなってから、こんな所にたった一人でいては。」 エルリン・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫