・・・その頃女流の作家では、田村俊子、水野仙子、素木しづ子、などという人達が盛んに書いていて、そのうちでも素木さんは、どっしりした大きなものを持った人ではなかったけれども、いかにも女らしい繊細な感情と、異常に鋭い神経との、独特の境地を持った作家で・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・二人で往来へ出て、田村町の停留場のところでちょっと立ち話した。譲原さんは、やっと汗のおさまった顔をして、今度は放送の日までに一遍わたしのところへ来て、打合せをしておこうという話になった。 うちへ来てくれた日は、寒い日だったけれども、譲原・・・ 宮本百合子 「譲原昌子さんについて」
・・・飫肥吾田村字星倉から二里ばかりの小布瀬に、同宗の安井林平という人があって、その妻のお品さんが、お佐代さんの記念だと言って、木綿縞の袷を一枚持っている。おそらくはお佐代さんはめったに絹物などは着なかったのだろう。 お佐代さんは夫に仕えて労・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫