・・・もっとはるかにのろのろすべきところであるにもかかわらず、それをすり変えた巧みさは作者の意識の悠々たる落ちつきとは度を違えて周章ている。 しかし、このようなことは、作品の欠点とはならずに、すべて作者の制作中の意識作用から眺めた作品の見方で・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・「そうしようか、藁三十束で足るかお前?」「足るとも。三畳敷位の小っちゃいのでけっこうやさ。それで安次も一生落ちつけるのや、有難いもんやないか。」「あんな奴、抛っとけ。」秋三は笑いながら云った。「阿呆ばっかし云うて!」とお留は・・・ 横光利一 「南北」
・・・かくして作られたる体験の体系は、一つの新しい生として創造の名に価する。 ただしかし、その体験が浅薄なゆえに偽りを含んでいるとしたら―― 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・しかしながら、目前の問題としては、洋画の内の想像画に見るに足るものなく、日本画の内の写生画もまた見るに堪えないのである。 それは何ゆえであるか。 素人の考えではあるが、洋画の行き方で豊太閤の顔を描き出すことは、容易ではあるまい。いか・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫