・・・ つかみ合いがしたくなれば兵士を互に出してつかみ合わせ短気なものがあやにく斯うした時にはふえるものですぐに剣の柄に手をかければこなたもだまって居られず、恐ろしい様子をいたいてまるで互にけんかの当人ででもある様に突いたり斬ったり心のままに・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・明治、大正のブルジョア文学の潮流においては、仮にそれはどのように孤立的、短期、且つ不成功であったとしても、一度も「抽象的な情熱」という自覚をもって云われたものはなかった。二葉亭の一生にしろ、北村透谷の生涯にしろ、樗牛、漱石、芥川、すべてこれ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・心たけく、機はしり、大略は弁舌も明らかに物をいい、智慧人にすぐれ、短気なることなく、静かに奥深く見えるのであるが、しかし何事についてもよわ見なることをきらう。この一つの欠点のゆえに、いろいろな破綻が生じてくるのである。家老は大将のこの性格を・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫