・・・僕の病気の責任を持ったって、しようがないじゃないか。僕の代理に病気になれもしまい」「まあ、いいさ。僕が看病をして、僕が伝染して、本人の君は助けるようにしてやるよ」「そうか、それじゃ安心だ。まあ、少々あるくかな」「そら、天気もだい・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・親が死んだからその代理に生きているともとれるし、そうでなくて己は自分が生きているんで、親はこの己を生むための方便だ、自分が消えると気の毒だから、子に伝えてやる、という事に考えても差支ない。この論法からいうと、芸術家が昔の芸術を後世に伝えるた・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・今度の看守長は、いつも典獄代理をする男だ。 ――波田君、どうだね君、困るじゃないか。 ――困るかい。君の方じゃ僕を殺してしまったって、何のこともないじゃないか。面倒くさかったらやっちまうんだね。 ――そんなに君興奮しちゃ困るよ。・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・「ナニ犬の代理だよ」。「オヤ犬の代理だと、いよいよおかしいネ、誰だよ、犬の代理なんかして居るのは」。「権助でがすヨ」。「権助かい、権助なら権助と早くいえば善いじゃないか、犬だ犬だなんて」。「だって間がわるいでがすヨ」。「間がわるい、なぜ間が・・・ 正岡子規 「権助の恋」
・・・例えば伽羅くさき人の仮寝や朧月女倶して内裏拝まん朧月薬盗む女やはある朧月河内路や東風吹き送る巫が袖片町にさらさ染るや春の風春水や四条五条の橋の下梅散るや螺鈿こぼるゝ卓の上玉人の座右に開く椿かな梨の花月・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 工場管理者代理、労働者、党員ルイジョフ、及び婦人服部職長で五十歳のソフォン・ボルティーコフなどはその代表である。 ボルティーコフは、古風な毛むくじゃらな髯とともに、あらゆる古風な労働者の考えかたや習癖を今日まで引っぱって生きている・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ごたついているところに目をつけて、例の満州へよく行く人物を、技術家の代理と称さして、先代と口約を交してあった後継息子のところへ株を貰いにやった。頼まれた人物は創立当時の価格でそれをうまく受けとって、現価で依頼人に売った。そのことは、半ヵ月も・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 長崎まで行く たたき殺しちまうと代理店のゴロにおどかされる。 其から又遊ぶ半年 今度の箇人のケイエイの金原デンキに入る 資本五十万円、箇人が大阪の××工業に売り 元のオヤジは専務、 専務が細・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・保険事業のこと、代理店としての仕事の性質が手に入ると、ロザリーは、持って生れた実業家の手腕をメキメキとあらわし、逆に、ミスタ・シムコックスに頼られる程の事務家となりました。 仕事に成功した彼女は、結婚にも目覚しい成功をしました。ロザリー・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・で坊主の代理をも勤め、屑屋をしながら夜はギリシャ哲学の本を読んでいるという山村という男である。山村は仙三が江沼を打殺して人に引かれていく姿を見ながら「馬鹿な奴だ。だからそんな良心なんか捨てちまえと言ったのに……」と泣けて泣けて仕様がなかった・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫