・・・のみならず途中の兵糧には、これも桃太郎の註文通り、黍団子さえこしらえてやったのである。 桃太郎は意気揚々と鬼が島征伐の途に上った。すると大きい野良犬が一匹、饑えた眼を光らせながら、こう桃太郎へ声をかけた。「桃太郎さん。桃太郎さん。お・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・同じ市内の電車でも、動坂線と巣鴨線と、この二つが多いそうですが、つい四五日前の晩も、私の乗った赤電車が、やはり乗降りのない停留場へぱったり止まってしまったのは、その動坂線の団子坂下です。しかも車掌がベルの綱へ手をかけながら、半ば往来の方へ体・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・投げ出していた足を折りまげて尻を浮かして、両手をひっかく形にして、黙ったままでかかって来たから、僕はすきをねらってもう一度八っちゃんの団子鼻の所をひっかいてやった。そうしたら八っちゃんは暫く顔中を変ちくりんにしていたが、いきなり尻をどんとつ・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・餅か、団子か、お雪さんが待っていよう。(些細 年の少い手代は、そっぽうを向く。小僧は、げらげらと笑っている。 私は汗じみた手拭を、懐中から――空腹をしめていたかどうかはお察し下さい――懐中から出すと、手代が一・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・景気の好いのは、蜜垂じゃ蜜垂じゃと、菖蒲団子の附焼を、はたはたと煽いで呼ばるる。……毎年顔も店も馴染の連中、場末から出る際商人。丹波鬼灯、海酸漿は手水鉢の傍、大きな百日紅の樹の下に風船屋などと、よき所に陣を敷いたが、鳥居外のは、気まぐれに山・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 貰いものの葉巻を吹かすより、霰弾で鳥をばらす方が、よっぽど贅沢じゃないか、と思ったけれど、何しろ、木胴鉄胴からくり胴鳴って通る飛団子、と一所に、隧道を幾つも抜けるんだからね。要するに仲蔵以前の定九郎だろう。 そこで、小鳥の回向料を・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・といった坂の曲り角の安汁粉屋の団子を藤村ぐらいに喰えるなぞといって、行くたんびに必ず団子を買って出した。 壱岐殿坂時代の緑雨には紳士風が全でなくなってスッカリ書生風となってしまった。竹馬の友の万年博士は一躍専門学務局長という勅任官に跳上・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・それから七夕様がきますといつでも私のために七夕様に団子だの梨だの柿などを供えます。私はいつもそれを喜んで供えさせます。その女が書いてくれる手紙を私は実に多くの立派な学者先生の文学を『六合雑誌』などに拝見するよりも喜んで見まする。それが本当の・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・お経が始まり、さらに式場が本堂前に移されて引導を渡され、焼香がすんですぐ裏の墓地まで、私の娘たちは造花など持たされて形ばかしの行列をつくり、そこの先祖の墓石の下に埋められた。お団子だとか大根の刻んだのだとかは妻が用意してきてあった。それから・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・「あとはまたお節句に団子をこしらえてやるせに、それにつけて食うんじゃ。」 子供は、毎日、なにかをほしがった。なんにもないと、がっかりした顔つきをしたり、ぐず/\云ったりした。「さあ/\、えいもんやるぞ。」 ある時、与助は、懐中に・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
出典:青空文庫