・・・諸君の如き畸形の信者は恐らく地下の釈迦も迷惑であろう。」 拍手はテントもひるがえるばかりでした。 私はこの時あんまりひどい今の語に頭がフラッとしました。そしてまるでよろよろ出て行きました。 何を云うんだったと思ったときはもう演壇・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・では、ナチス治下の教育が、どんなにドイツの少年たちを毒しているかをあからさまにしたもので、映画化され、世界に深甚な影響をあたえた。エリカ・マンはまた子供のための冒険物語「シュトッフェルの海外旅行」をも書いているそうである。 ナチス・ドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・、スペインの民主戦線に有名なパッショナリーアと呼ばれた婦人がいたことも知らなければ、大戦中フランスの大学を卒業した知識階級の婦人たちの団体が、どんなにフランスの自由と解放のためにナチス政権の下で勇敢な地下運動を国際的に展開したかということも・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・独善的に民族の優越性や民族文化を誇張したファシズム治下の国々が、ほかならぬその母胎である女性の性を、売淫にさらしていることはわたしどもになにを語る事実であるだろうか。 ところが、昨今の日本の文化は、自国の社会生活の破壊の色どりである売笑・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・坪二百五十円であるとか、それではこの辺一帯の地価に対して高すぎる、だから売れない。そんな噂があって、区画整理した分譲地もそこここまばらに住む人が出来ただけで数年が経過していた。すると、一昨年あたりから、地価の方はどうなったのか知らないが、今・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 日独協定が行われて略一ヵ年を経た本年下四期に日伊協定が結ばれ、南京陥落の大提灯行列は、大本営治下の各地をねり歩いた。十二月二十四日開催の第七十三議会に先立つこと九日の十五日に日本無産党・全評を中心として全国数百人の治維法違反容疑者の検・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・猿面冠者の立身物語は、そのような立身をすることのない封建治下の人民に、人間的あこがれをよびさますよすがであった。自分の生涯にはない、境遇からの脱出の物語だった。太閤記と云う名をきいただけで、日本の庶民の伝承のうちにめをさます予備感情がある。・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・この一つの雑誌に、「スタアリン治下の文学と作家生活」という座談会記事があり、ユウジン・リオンスという人の「ソヴィエトの作家」という文章があり、創作の頭には勝野金政という人物の「モスクワ」という二百五十枚の小説がのっている。 アグネス・ス・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・「でも、地価や何かがあがるから少しは今とは違うでしょう。「いやそうです。然しですな地価が上ったからと云って、農民には直接収入の増加とはなりません。従って、実力以上の負担を負うのは気の毒ながら何とかして町との均衡を保つために一つ私の考・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・予は人の葬を送って墓穴に臨んだ時、遺族の少年男女の優しい手が、浄い赭土をぼろぼろと穴の中に翻すのを見て、地下の客がいかにも軟な暖な感を作すであろうと思ったことがある。鴎外の墓穴には沙礫乱下したのを見る外、ほとんど軟い土を投じたのを見なかった・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫